●むらさき てい ががく
一〇九 紫の朱を奪ふを悪むなり、鄭声の雅楽を乱る
くつがへ
を悪むなり、利口の邦家を覆す者を悪むと。今両眼
ありて明ならざるものは、紫を好むこと朱より甚し。
そう いと こ
両耳ありて聡ならざる者は、鄭を好み雅を厭ふ。這
おぼ
の心あつて開かざる者は、利口に溺れて忠告直言の
●へいあつ おほ
人を屏遏す。これ皆習気情欲良知を葢ふを以てなり。
●ゑん
もし、葢ふ者除かるれば、則ち良知は宛然として出
しか
づ。然る後之を悪むこと聖人と一般なり。否らざれ
ば則ち書史を窮め文章に富むと雖も、猶紫を好み鄭
を好むと、利口に溺るるとは、未だ嘗て凡俗人に異
ならざるなり。かくの如き人にして下に在らば、則
ち必ず徳を亡ぼす、上に在らば則ち夫子の戒むる所
きかん
を免れざるなり。鳴呼、これ聖人の亀鑑にして、万
し
世誣ひざるものなり。
悪紫之奪朱也、悪鄭声之乱雅楽也、悪利口之
覆邦家者、今有両眼而不明者、好紫甚乎朱、
有両耳而不聴者、好鄭厭雅、有這心而不開
者、溺於利口、而屏遏忠告直言之人、此皆以
習気情欲葢良知也、若葢者除、則良知宛然出焉、
然後悪之与聖人一般、否則雖窮書史富文章、
猶好紫好鄭、与溺於利口、未嘗異於凡俗人
也、若人而在下、則必亡徳矣、在上則不免於
夫子之所戒也、鳴呼、此聖人之亀鑑、万世不誣
者也、
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●紫云々。論語
陽貨篇に出づ、
紫は間色、鄭声
は淫、雅は正、
利口は巧弁。覆
は顛覆。
●屏遏。退け止
む。
●宛然。さなが
ら、本のまゝ。
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