人 ●
一一一 或、其の放心を求むるの義を問ふ。曰く、放
とは外物に取られて放出するなり、故に之を求めて
● かへ
以て方寸の内に復し了るなり。方寸とは他にあらず、
太虚なり。放心を求むるは、亦た惟だ太虚に帰する
やす
の謂なり。事易きが如くして実は難し、功浅きが如
くして誠に探し、これ古今真に放心を求むる者の尤
まれ
も罕なる所以なり。又た曰く、放心を求むるは、太
虚に帰すと、既に命を聞けり。然り而て程子の言に
すで ほう
曰く、「聖賢の千言万語、只だこれ人已に放するの
も ●
心を将つて、之を約して反復し身に入り来り、自ら
たず ● ●
よく尋ねて上に向つて去らしめんと欲するのみ、下
学して上達するなり」と。其の身に入り来ると謂う
かへ
て、而て方寸に復ると謂はず。能く尋ねて上に向う
て去ると謂うて、太虚に帰すと謂はず。然るに子は
そも\/
方寸を以て身字に易へ、太虚を以て上字に易ふ、抑
亦た説あるやと。曰く、身の身たる所以は方寸の虚
あるを以てなり、もし其の虚なくば則ち不霊にして
死なり。故に吾れ則ち之を方寸と謂ふ。上なるもの
は何ぞ、仁なり。仁なるものは何ぞ、太虚の徳なり。
し
太虚の徳は、仁を外にして有るなきなり。子猶吾が
説程子に異なるを疑ふか。
或問求其放心之義、曰、放者、取於外物而放
出焉也、故求之以復于方寸内了、方寸非他、
太虚也、求放心、亦惟帰乎太虚之謂也、事如
易而実難矣、功如浅而誠深矣、此所以古今真求
放心者之尤罕也、又曰、求放心者、帰乎太虚、
既聞命矣、然而程子之言曰、「聖賢千言万語、只
是欲人将已放之心、約之使反復入身来、自能
尋向上去、下学而上達也、」其謂入身来、而
不謂復于方寸、謂能尋向上去、而不謂帰
乎太虚、然子以方寸易身字、以太虚易上字、
抑亦有説乎、曰、身之所以為身、以有方寸之
虚也、如無其虚則不霊而死矣、故吾則謂之方
寸、上也者何、仁也、仁也者何、太虚之徳、太虚
之徳、外於仁而無有也、子猶疑吾説異於程子
乎、
|
●放心。孟子告
子上篇に「学問
の道は他無し、
其の放心を求む
るのみ」とあり。
●方寸。一寸四
方の義、心をい
ふ、心の太虚は
天の太虚なり。
故にこゝでは又
た太虚を方寸と
いふ。
●之を約す云々。
之をひきしめ、
反しもどして身
に入り来らせる。
●上に向つて。
向上に同じ。
●下学上達。論
語憲問篇に「天
を怨みず、人を
尤めず、下学し
て上達す」とあ
り。
|