Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.12.24

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その107

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第二十二席 (2)

管理人註
   

          ひ と  『コレおきぬ、他人が買つてやると云つたからつて、此節のやうに米 高の時には、世間へ少しは遠慮と云ふ事をせにやアならない、小間物屋も                 くつ 小間物屋だ、此村なんぞは米の飯を喰てる家と云つちやア一軒だつて有り        わし うち やアしないよ、私の家なんざア三度が三度ながら麦飯の粥を食て、命を繋 いで居る位だ……留公も新八も作十も、俺の処で銭を使はせては、お前達 の親達に済まねへから、決して娘に何にも買つて遣つて呉れるなよ』             『マア親爺さん、宜いからお前、そんな事を云はないで黙つてお在で』    おとつ        『阿父さんはいつも彼んな事ばかり云つて居る』  喜兵衛はブツ/\と呟きながら、裏口の方へ往つて了ひました、其後姿 を眺めてお絹は。                            こと  『皆な阿父さんの云ふ事を気にしてお呉れでないよ、二言目には時節   ど う                  みつともないこと       なん が如何だの、三度麦飯のお粥を食べるなどゝ、不外聞事を云ふのだよ、何       あた 程米高でも大阪辺りではそんな事はないよ、私などは大阪で沢山なお米の 取なやみをして居たから』  『ウム然うだ、お絹さんは大阪の靭の方へ奉公に往つて居たが、一体 其家は何人家内だつたへ』                         『御家内は十人余りで、お米は、八升位づゝ炊して居ました』  小間物屋は是れを聞いて。  『ヘエー、仮に十人の御家内として、八升のお米だと云ふと、一人前                      たべ に八合の割ですが、此米高に一人で八合づゝも食られては、親方も堪りま せんねエ』  『職人衆が居ますから、お米が高いと気にひがみが付て、別に人数が 殖えた訳でもないのに、二月の末から一升づゝ余計に炊すやうになりまし た』                        小間物屋はお絹の話しを聞きながら、煙草を喫んで居りましたが。  『夏だとそんなに喰べられるものではありませんが、春の乾きと云つ                   て、食事が進むのかも知れませんな、而して何でございますか、職人衆      いで を使つてお在になるとは、何の御商売をなすつてお在でになるのですへ』  傍から作十が差出まして。  『小間物屋さん、お前知らないか、此娘の奉公をして居たのは、大阪 の靭の油掛町で、美吉屋五郎兵衛さんと云ふ、更紗染屋だ』                        なか/\  『アゝ左様でございますか、靭と申しましても却々広うございますか ら、美吉屋と云ふお家があるか、其辺は一向に存じません』                         うち  『小間物屋さんは、大阪の何の辺だへ、お前さんの家は』          『ヘイ……彼の何でございます、島の内の方で……トキニお若い衆さ ん、此お方に何か買つて上げて下さいまし』                  びん       どつち  『ウムさうだ、白粉にしやうか、鬢附にしやうか、何方でも宜い方を     買つて進げやう』


幸田成友
『大塩平八郎』
その160 

中瀬寿一他
「『鷹見泉石日記』
にみる大塩事件像」
その3 


『大塩平八郎』目次/その106/その108

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