露顕
内山彦次郎
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美吉屋の下女は平野郷の者で、三月の出代時に暇を貰つて故郷へ
帰つたが、何かの伝手に、旧主人の家では家内人数の割合に飯米
が多く要る、毎日神前へ備へるといつて、老人夫婦―五郎兵衛は
六十弐歳つねは五十歳―が持つて行かれる御飯は、お下りが一粒
もない、妙な家もあるものだと話した之は史談会速記録に依る、
前掲五郎兵衛夫婦の申口とは若干の相違があり、平野郷は城代土
井大炊頭の領分で、陣屋もあり、七名家といつて土着の豪族七名
が其郷を支配する、其七名家の中の末吉平左衛門と中瀬九郎兵衛
とが、此話を聞いて陣屋へ訴へ出たので、陣屋に詰めてゐる土井
タチイリ
家の家来から取り敢ず此段を大炊頭へ申入れ、大炊頭より立入与
力内山彦次郎へ沙汰があつた、立入とは東西両町奉行組の与力中
より選ばれ、兼々城代の許へ出入し、用向があれば之を承る者を
いふ、美吉屋夫婦は大塩父子に縁故ある者として、町奉行所より
町預わ命じてある位故、多分同人方に大塩父子を匿つて居るので
あらうと、彦次郎ハ密に五郎兵衛を呼出して糺問を加へ、愈々相
違ないことを確めた。
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美吉屋の下女は平野郷の者で、三月の出代時に暇を貰つて故郷
へ帰つたが、何かの伝手に、旧主人の家では家内人数の割合に飯
米が多く要る。毎日神前へ備へるといつて、老人夫婦――五郎兵
衛は六十弐歳つねは五十歳――が持つて行かれる御飯は、お下り
が一粒もない、妙な家もあるものだと話した以上は史談会速記録
による、前掲五郎兵衛夫婦の申口とは若干の相違がある平野郷は
城代土井大炊頭の領分で、陣屋があり、七名家といつて土着の豪
族七名が全郷を支配する。その七名家の中の末吉平左衛門と中瀬
九郎兵衛とが右の話を聞いて陣屋へ訴え出たので、陣屋に詰めて
いる土井家の家来から取り敢へず大炊頭へ上申し、大炊頭から
タチイリ
立入与力内山彦次郎へ沙汰があつた。立入とは東西両町奉行組の
与力中より選ばれ、城代の許へ出入し、用向があれば之を承はる
者をいふ。彦次郎は美吉屋夫婦が大塩に縁故ある者として、町預
りになつて居る位故、多分同人方に大塩父子を匿つて居るのだら
うと考へ、密に五郎兵衛を呼出して厳しく糺問を加へ、愈々それ
に相違ないことを確めた。
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