Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.12.25

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その108

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第二十二席 (3)

管理人註
   

 留吉は目を円くして。                             『オイ作十、俺が何か絹ちやんの、好きな品を買つて進げやうと思つ         じやま てるのに、お前は妨害をするのか』        を か  『留公、怪可しな事を云ふな、お前が買つて進げやうと思ふのなら、                          ● ● ● ● ● ● 己れに遠慮をしないで、何故最初ツから買はないのだ、ドしみたれめ』                   ぬか  『ナニしみたれだ、此ン畜生、何を吐しやアがる』  と留吉と作十は、掴み合を初めた、傍から新八が二人を止めて。                   て あ  『コレお前達は何だつて、そんな手暴らな事をするんだ、オイ小間物 屋さん、今日は斯う云ふ始末だから、荷物を早く片附けて帰つてお呉れ』  『ヘイ/\、私の商ひの事で、斯んな事になつちやア済みません』  と云ひながら、小間物屋は、慌てゝ荷箱を積重ね、風呂敷に包んで、真 中の処を真田紐で締め、挨拶もそこ/\、背負つて出て行きました、お絹 は若い衆の争ひで、買つて貰はうと思つて居た品も買つて貰へず、肝腎の 商人は帰つて了つたので、腹を立てゝ奥の間へ入つて了つた、斯うなると 三人の若い衆も手持不沙汰で。         てめへ  『ソレ見ろ、汝が余計な事を云ふもんだから、お絹ちやんが腹を立てゝ あつち 往方へ往つて了つた』  『何云やアがるんだい、汝が生意気に、一人好い男がらうとしやアが                       ぬか るから、斯んな事になつたんだ、まだそんな事を吐しやアがるか、是でも 食ひやアがれ』      さゞえ  と作十は栄螺のやうな握り挙を振上げて、留吉の頭をポカリと殴つた。    うぬ  『汝殴りやアがつたナ』      こぶし  と同じく挙を固めて、ポカリと殴り返す。  『マア待ちな』  と云つて仲裁に這入つた、新八の頭を間違へてポカリ。    こいつ  『此奴、何で己を殴りやアがる』                いど  と三人が台所でドタリパタリと挑み合つて居る物音を聞いて、主人の喜 兵衛、何事が起つたのかと来て見ると、三人の争ひ。            ひ と  『コレ、お前達は他人の家へ来て、喧嘩しちやア可けない、コレ危な い、マア静かに……』            あるき  と云つてる処へ、村の歩夫で、五助と云ふ男が表から這入つて来て。  『喜兵衛さん、今日は』  『オゝ五助どん、また何かお布令かへ』      こちら  『イエ当家のお絹さんに、唯今直ぐにお庄屋さんの処まで、お出で下 さるやうに』  喜兵衛は驚いた、何の為めに庄屋から、娘を呼びに来たのか解りません から。


幸田成友
『大塩平八郎』
その160 

中瀬寿一他
「『鷹見泉石日記』
にみる大塩事件像」
その3 


『大塩平八郎』目次/その107/その109

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ