Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.12.29

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その112

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第二十三席 (3)

管理人註
   

                     いづ  扨五郎兵衛は如何も様子が変だと思つたが、何れ一度は調べられると云     かね ふ事は、予てよりの覚悟でございますから、信濃町の会所へ往つて見ると、 西組の与力内山彦次郎をはじめ、同心でございまして、関弥次右衛門、河 合善八郎が居並んで居ります、下座の処には油掛町の年寄、白子屋与一郎、 五人組の大島屋太兵衛などが控へて居りますので、扨こそと思ひました、 然れども、五郎兵衛も斯うなつては、さして驚きも致しません、彦次郎は わざ 態と言葉やさしく。  『五郎兵衛、其方は何歳ぢや』  『六十二歳でございます』  『其方は去二月十九日、大阪市中を騒がし乱暴を働いた大塩平八郎と、              まじわり 如何なる縁故に依つて親しき交際を致すのか』  『左様でございます、私の家内つねと申します者と、大塩平八郎様の せう               けうだい 妾でございました、おゆうどのとは義理の姉妹でございまして、夫れ等の 続き合ひから、お心安くして居りましてございます』                     たび          と  『左様か、然らば何ぢやナ、平八郎の此度の企ては、疾くより存じて 居つたであらうな』  『イエ左様な事は一向存じません、私も彼の騒動が起りましたので、 始めて驚きましたやうな事で……』  『騒動の起るまでは、何事も知らずに居つたと申すのか』  『左様でございます』                  みぎり  『コリヤ五郎兵衛、平八郎乱暴の砌、押立たる旗は、其方の家に於て 染めたと云ふ事は、生捕し者の白状に依つて明白であるぞ、是れでも騒動 の起るまで、知らずに居たと申すか』  『成程其旗の類は、私方にて染めましてございます、なれども何にお                     あつら 用ひになると云ふ事は少しも存じません、お誂へになりまする時には、唯                           そ ち 或る所から斯ういふものを頼まれたが、幸ひ五郎兵衛、其方の家は染物 屋だから、仕事を為せて遣ると仰しやいましたので、私方では何にお使ひ なさるのか、左様な事は存じませず、御注文の通り染上げてお渡し申した のでございます』  と此辺答は、最初旗を染める時から、万一の時には斯う云はうと思つて 居りましたから、少しも言葉に淀みなく申し述べました、彦次郎も腹の中   こやつなか/\      すは                  こわもて で、此奴却々胆力の据つた男だと思ひましたので、今度は少し強面になつ て。                            かくま  『五郎兵衛、其方の家に平八郎親子の者を、いつ頃から隠匿つて居る のか、真直ぐに白状しろ』  『エツ』  『平八郎や格之助を、いつから隠匿つて居るのぢや』  『是れはまた迷惑千万、私の方に左様な事は』               だ め  『五郎兵衛、隠したつて無益だぞ』  『何と仰しやいましても、左様な事はございません』  『強情にも知らぬと申すか……ソレ、五郎兵衛に縄を打てツ』


幸田成友
『大塩平八郎』
その160 
その193 

中瀬寿一他
「『鷹見泉石日記』
にみる大塩事件像」
その3 


『大塩平八郎』目次/その111/その113

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ