Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.12.30

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その113

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第二十三席 (4)

管理人註
   

 バラ/\と手先が立寄つて、五郎兵衛に縄を掛けました。         きよげつ  『五郎兵衛、去月の末、風雨の烈しき夜、平八郎親子の者が其方の家 へ参つたであ らう、其翌朝、其方は、二足の濡草鞋を取棄たであらうがな』  『左様な事は決してございません』  『其方の家は何人の家内ぢや、人数を申して見い』  『ヘイ、私共夫婦と、娘と孫、其他に下男が五人と、下女が一人、都 合十人家内でございいます』                       『唯今申した一人の下女と云ふのは、飯焚きか何ぢや』  『御意にございます、飯を焚かせて居りました者で……』             ど う  『其者は今居るか、如何ぢや』  『ヘイ……』      ひま  『此程暇を出したのであらう』         うち  いろ/\  五郎兵衛は腹の中で、種々の事を聞くとは思ふたが、其おきぬの口から                足が附いたと云ふ事は少しも心注きませんから。                    ひま  『三月は出代り月でございますから、暇を出しましてございます』  『其者の名は、きぬと申したか、如何ぢや』  『ヘイ、仰せの通り、きぬと申しました』  『コリヤ五郎兵衛、其きぬが口から、其方は、二月の末より、平八郎       かくま 親子の者を、隠匿つて居るとの事を白状に及んだぞ』  『エツ……』  五郎兵衛はモウ是れは駄目だと思つたが、隠匿つて居るとも云はれませ んから、暫らく返答に躊躇して居ると、年寄役の白子屋与一郎が。  『五郎兵衛どの、御役人様の方ではモウちやんと、お手が届いてある         ごうぜう 事を、お前が幾ら強情張つて居ても駄目だよ、私もお前が、あんな人を隠 匿つて居やうなどゝは夢にも知らずに居たのだが、モウ斯うなつたら真つ 直ぐに、云つて了つた方がお前の身の為め、白状をせずに居れば、いづれ                                あひだ 拷問の責苦は免れないから、痛いめしてから白状をするよりか、今の間に 有体に云つた方が宜しからう』  傍から五人組の一人、大島屋太兵衛もとも/゛\に。  『五郎兵衛さん、了簡違ひをしちやア可けないよ』  と云はれて見ると、モウ隠して居る事は出来ません、そこで五郎兵衛も 決心をして頭を下げ。  『恐れ入りましてございます』                  たて  『然らば当夜の事から詳しく申し立るが宜い』  『モウ斯うなりました上は、少しも包み隠しは致しませぬ……エー二 月廿四日の夜の事でございます』


幸田成友
『大塩平八郎』
その160 
その193 

中瀬寿一他
「『鷹見泉石日記』
にみる大塩事件像」
その3 


『大塩平八郎』目次/その112/その114

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ