Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.1.6

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その117

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第二十四席 (3)

管理人註
   

 『格之助……コレ、モウ起きぬか』  格之助は目を覚して。  『思はずグウスリと寝込んでしまいました、併し此宿屋の者は、吾々 二人を怪しみは致しますまいか』  『まだ此地までは手が廻るまいと思ふが、併し油断は出来ない』    あなた      いかゞ        つもり  『貴父は今後如何遊ばす御心算でございます』        もろ はい  『斯くまで脆く敗を取らうとは思はぬから、別に斯様に致さうと云ふ、 深い考へはないのだ、最初の考へでは、甲山に立籠らうと思つたが、尤も 夫れは勝利を得たる時の事であるから、今となつて一身の置き処さへない とは、実に残念な事ぢや』            ど う  『橋本忠兵衛殿は如何せられましたでせう』                    かね  『昨日、彼れから直ぐ、伊丹へ往つて予て紙屋へ預けて置いた、家族 を伴ひ、京都へ身を避けると云つて往つたが、無難に遁れたか、其辺も案 じられたものぢやテ』  『いつぞや貴父が私へお話しをなさいました、薩州の藩中川上哲雄と       た よ             いかゞ か申す人を頼寄つて、薩摩まで落延びては如何でございませう』  是れを聞いて平八郎、ハタと膝を打叩き。               『ヤ是れは宜い処へ心注いた、今申す其哲雄殿は、私が門人も同様、                                と の 殊に哲雄の家は家老職の、川上式部と云ふ人の分家であつて、当時君公の                       ど う 御覚えも目出度いと云ふ事を聞いて居るから、如何なりとして鹿児島表へ 立越え、哲雄の家に身を寄せる事にいたさう』  『併し夫れに致しても、大阪の川口から船に乗らねばなりますまい』  『尤も左様ぢや』                         このや   あるじ  と二人が話しをして居ります処へ、出て来たのは、此家の主人と見えて 六十位の老爺。  『お客様、御免なさいまし、誠にお邪魔ではございますが、一寸お聞 き申します、貴下方は、今晩私共で、お泊り下さいまするか』  今朝来たときには、婆ア一人であつたがと思ひながら、平八郎は。  『お前は当家の御亭主か』  『ヘイ、私が伏見屋儀助でございます、貴下方は初瀬の方から、夜道 を掛けてお越になつたさうで……』                    ゆふべ  『少し今朝早く此奈良に用があつて、昨夜は夜道を出て来たので……    とめ 今夜は泊て貰ふつもりだ』                  どうぞ             と し  『ヘイ有難う存じます、夫れでは何卒御住所とお名前、また、お年齢 と御商売を仰しやつて下さいまし』    わしら  くにどころ なまへ  『私等の国所と姓名を……』


幸田成友
『大塩平八郎』
その160 
その193 

中瀬寿一他
「『鷹見泉石日記』
にみる大塩事件像」
その3 


『大塩平八郎』目次/その116/その118

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