Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.1.8

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その119

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第二十四席 (5)

管理人註
   

 『ハゝアそんな騒ぎがあつたのかな』         ゆる  『何卒マア御寛りとなさいまし、今に夕飯を差上げます』  と云つて亭主は立つて行きました、跡に二人は顔を見合せまして。                        『此地にも長くは落着いては居られんが、然らばとてバタ/\として                       もとくら は却つて不覚を取るから、斯ういたさう、灯台は不暗しと云ふ事があるか ら、却つて大阪に暫らく、身を潜めて居つた方が安全であらうと思ふ』          もつとも  『成程夫れは御道理ではございますが、大阪へ往つても般若寺村へは、 モウ立寄る事は出来ますまい』  『無論忠兵衛の家などへは行かれぬ』        ほか  『夫れでは他に身を寄する家がございますか』  『有る』  『迂闊な者は今日の場合、決して頼みにはなりますまいと存じますが、          なんびと 有ると仰しやるのは何人でございますか』                   かれ  『靭油掛町の美吉屋五郎兵衛ぢや、渠は日頃より義侠の心に富み、ま           いろ/\                 あつぱ た今回挙兵に就ても、種々力を尽して呉れた男ぢや、町人ながら遖れなる たまし 魂ひである、事は予てより承知をして居るから、兎も角も五郎兵衛の家に                こゝろざし          そ ち 当分身を潜め、時機を見て再び我志望を達するか、夫れとも其力が云つた やうに、鹿児島表へ立越えて、川上方に身を寄せて、其上にてまた一工夫 を致す事にしやう』  『夫れでは明日此家をお立退きになりますか』              こ ゝ   あるじ            わし  『イヤ夫れでは却つて当家の主人が怪しく思ふから、万事は私に任す がよい』                     くれ  と平八郎は何か考へて居りましたが、日が暮ると、何だか此伏見屋へ、 出入する者が多いやうに思はれます、疵持つ足の平八郎。  『格之助、どうも、こりやア危険ぢや』  『左様でございます、先刻も亭主の儀助が変な目付きをして居りまし た』            しゆつた  『兎も角も明早朝に出立つをいたさう』  と二十日の朝から廿一日の朝までに充分疲れを休め、伏見屋を出立して、               かしこ 是れから河内に立越え、此処や彼処の村々で二三日を費やして居りますと、              ひ る 廿四日は朝からの曇天で、正午過ぎから雨になりましたので、斯う云ふ日  よか       おやこ が宜らうと、父子は美吉屋五郎兵衛方をさして赴きましたのでございます。


幸田成友
『大塩平八郎』
その160 
その193 

中瀬寿一他
「『鷹見泉石日記』
にみる大塩事件像」
その3 
 


『大塩平八郎』目次/その118/その120

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ