|
内山彦次郎は、五郎兵衛が白状の口書を取り、年寄五人組の者に向ひ。
か
彦『年寄を始め、五人組の者共に於ては、五郎兵衛が斯うして罪人を、
かくまひ
隠匿居る事を知らず居つたのは、無念の至りであるが、今となつては、咎
いづ
むる場合でない、何れ追つて御沙汰があるであらう、併し五郎兵衛は此儘
役所へ引立て参るから、左様心得て宜からう』
白子屋与一郎は頭を下げまして。
与『恐れ入りましてございます』
いたは
彦『五郎兵衛を労つて召連れい』
すまゐ
是れから彦次郎は町代に命じ、五郎兵衛方の住居を詳しく図引させまし
て、懐中し、彼是する中に、先刻立去りました、同心河合善八郎が、同役
さしづ
佐川豊左衛門と同道して参りましたから、彦次郎は此両人に万事の指揮を
いたし置き、五郎兵衛は西町奉行所へ、自分は直ぐ其足で、御城代、土井
大炊頭の役宅へ参り、大炊頭家来鷲見十郎左衛門へ美吉屋五郎兵衛の陳述
にはか
を詳しく復命に及びましたので、俄然に評議をする事になりました、此評
つら
議の席に列なつたのは、いづれも土井大炊頭の家臣でございまして、岡野
小右衛門、菊池鉄平、芹沢啓次郎、松高縫蔵、足立讃太郎、遠山勇之助、
斎藤勇五郎、菊池弥六、そこへ大目附時田肇も加り、平八郎父子召捕方の
打合せに及びました、時田肇は内山彦次郎から差出しましたる、美吉屋五
ゑ ひら
郎兵衛居宅の画図面を展き。
肇『一同、此図面に依つて、各自が持口を定めらるゝが宜からう、御城
おぼし なる
代の思召しでは成べく両人を、生捕りにしたいとの御意見であるから』
鉄平は進み出で。
鉄『無論拙者は生捕に致す考へでございますが、此画図面で見ますると、
平八郎等が隠れ居る処へ向ふには、入口などは余程狭いやうに思はれます』
芹沢啓次郎は。
啓『生捕に致すに就ては、吾々は手頃の棍棒を携へて参り度く存じます
いかゞ
るが、如何でございませう』
肇『夫れが宜からう』
そこで一同の者へ棒を持せて遣る事になりました、其時岡野小右衛門、
画図面を見て何か頻りに考へて居りましたが、大目附に向ひ。
とても
小『今鉄平殿の申されたる如く、入口へ行くまでの路次も狭く、到底二
人と並んで行く事は出来ますまい、其場に至つて、我先きに進み入り、高
いたづら
名手柄を現はさんなどゝ、徒に先を争ひ、却つて御用の妨げとなるやうな
あらかじ くじ
事があつても相成りませんから、予め鬮を曳き、順番を定めて置き度く存
じます』
|
幸田成友
『大塩平八郎』
その160
その193
中瀬寿一他
「『鷹見泉石日記』
にみる大塩事件像」
その3
鷲見
鷹見
が正しい
|