Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.9.9

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その14

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第三席 (4)

管理人註
   

 と是れから八田は抹茶が好きでございますから、平八郎を茶席へ案内                      すゝ をいたし、衛門太郎は自ら茶を点てゝ平八郎に侑めて居ります処へ、取 次ぎの者が参りまして、  『旦那様申上ます』  『何ぢやナ』        お み え  『谷村様が御入来になりましてございます』  『林家の谷村さんか』  平八郎は。  『御来人ならばお構ひなく』               ごじん  『イエ貴公も満更見知らぬ御人ではない、林大学頭殿の用人、谷村                 幸之進殿が来られたのでござる、彼の人も茶は好き道だから、此処へお 通し申さう、併し大塩氏貴公御差支へでもあるかな』  『イヤ拙者は差支へも何もござらぬが、何かまた御用件の話しでも あれば、遠慮した方が』  『ナニ、実は一寸相談を受けた事もござるが、夫れに就いて貴公へ             てう もまた御相談ござるから、恰ど幸ひだ……コレ/\谷村さんに来人はご     さしあ            どうぞこちら ざるが、差合ひの無い客であるから、何卒此方へお通り下さいと云つて、 こ ゝ 此室へご案内をしろ』  林大学頭と云ふのは、将軍家の御儒者衆で、御知行は三千五百石の旗 本石の旗本でございます、其林家の用人谷村幸之進は、此の頃主人大学           はる/゛\ 頭の家政の事に就て、遥々江戸表から大阪に参りまして、逗留中でござ います、今取次の者が立て行きますと、間もなく谷村幸之進が案内に連 れて茶席に通りますと、八田衛門太郎は。  『サアずつと御席へ』  『御免を蒙る』  と席に就きますと、平八郎も。  『谷村氏、一別以来御健勝で』  『これは大塩氏でござるか、誠に其後は打絶えて御意申さんが、い つも御壮健でござるな』                        すゝ  互に挨拶も済み、衛門太郎は茶を点てゝ、両人に侑めて居りましたが。  『谷村さん、此大塩と拙者は別懇の間柄で、何事も隔意なく相談を する中でござるから、例のお話しなれば、御遠慮なく仰せられるやうに』                      『夫れではお話しを致しませう、実は彼の事に就いて、江戸表より こんてうてがみ                          ど う 今朝書状が届きました、夫れゆえに斯うして参つたやうな次第、如何で ござらうな、貴公はお役柄であるから、町人共へお話し下さらば、整ふ であらうかとも存ずるので……』  平八郎は傍に居て何の話しかは解りませんが、自分が居ては却つて差 合にならうかと推察しましたから。              いとま  『失礼だが拙者はモウお暇をいたさう』  『アゝ大塩氏、一寸帰るのを待つて下され、実は少々貴公に相談が         ほか ある、と云ふのは外でもない、今聞かるゝ通り、此谷村さんから頼まれ た事がある、夫れは何かと云ふと大学頭様には、今度御家政を改革なさ るに就いて、是非金子がお入用なので、此大阪で是非千両は調達したい と谷村さんから御相談、どうも唯千両と云ふ大金を調達すると云ふ事は           いつ 甚だ困難であるから、寧そ千両の頼母子講を組立てはどうであらうかと の御相談、拙者も夫れが宜からうと存じたが、夫れにしても其講に加入 する者と云へば、町人共でなければならぬが、貴公は如何思はつしやる』  『当家の主人なり、貴公は御役ネの事だから、然るべき町人共へ頭 から、ウンと云はせてお貰ひ申したく存ずるが、如何でござらうかな』



相蘇一弘
「大塩の林家調金
をめぐって差合
差支え


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