Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.9.10

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その15

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第三席 (5)

管理人註
   

                     かたち  大塩平八郎は此話しを聞いて居りましたが、容を正しまして。  『谷村氏は深い考へもなく、左様に仰せらるゝのは無理の無い事だ が、八田氏、貴公はまた如何したものだ、能く物事を考へて見られよ、                             さむらひ 大阪の町人はいづれも大名屋敷へ出入をいたして、倉屋敷詰の武士に交                             たやす 際をして居る、だから諸侯からの用金の掛引に慣れて居るから容易く相 談が出来るであらう、が併し林大学頭様は失礼ながら三千五百石の御旗 本で、御役は御儒者衆、大阪の町人共とは別に関係もないから、相談が 万一纏まらぬ時には林家の外聞にも関はる事、夫れのみならず、其等町 人共の口から洩れて、大阪に在る処の諸大名の倉屋敷詰、役人の耳にで も入る時には甚だ面白くござらぬぢやテ、八田氏もまた其辺の事に、心   が注きさうなものを如何した事でござるか』                           もつとも  平八郎は一本極められた、併し平八郎の云ふ処が如何にも正理でござ いますから幸之進は。              づか  『何さま其辺の処へは心注ずに居りました、成程千両の金子を調達 するのに、江戸表から大阪へ来て、町人に頼母子講を作つたなどとあつ ては外聞が宜しくござらぬ、が併し夫れだからと申して、他から借入るゝ と云ふ目的もござらぬので、差当つての当惑でござるが、八田氏、何か 他に宜い御思案はござるまいか』                  あづ  『左様……折角斯うして御相談に与かつたのだから、何とかして調 へたいとは存じますが……』  『イヤ左様に後心配にも及ぶまい、宜しい、其千両の金子を拙者が 引受けませう、大塩平八郎が引受けて、間違ひなく調達いたすから、頼         母子講は断然お止めなさるが宜しい』  平八郎が千両の金を引受けると云ふのを聞いて、谷村幸之進は大塩の 義侠を感じ入り。                    かたじけ  『貴公がお引受け下さるとは、実以て辱なく存ずる、八田氏、貴公 からも宜しく礼を云つて下さるやうに』  『大塩氏、それでは貴公が千両の金子を』  『如何にも調達いたしませう、夫れでは谷村氏、今日と申して冬の                   やしき 日の短日でござるから、明日の朝、手前邸宅までお越下さるやうに、屹 度其節に千両相違なくお手渡しをいたしませう』   たやす  と容易く受合ひました。



相蘇一弘
「大塩の林家調金
をめぐって
 


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