Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.10.25

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その58

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十二席 (2)

管理人註
   

       このたび  『偖先生、今度の思召しには、此喜兵衛も感服の外はございません、 就きましては此処へ百五十両の金子を持参仕りました、是れは甚だ失礼で はございますが、右の費用の中へお加へ下さいませ、書籍の代金と都合六 百五十両に相成りますから』                             か ね  と云つて喜兵衛は、別に革財布に入れて持つて参りました金子を平八郎 の前に差出しました、此時平八郎は思はず畳に両手を突きまして。    かたじけ  『辱ない、実は五百両では、少し足りなからうと思つて居た処へ、貴 公が斯うして、百五十両出金をして呉れゝば六百五十両、夫れだけあれば 大丈夫ぢや、平八郎、厚くお礼を申す』  『左様に仰しやつて下すつては、却つてお恥かしう存じまます』           あらた             わけあた  『就ては此金子を更めて貴公の手から、窮民共へ頒与へて貰ひたいも           いろ/\  てかず のぢや、尤も夫れには種々と手数もいたさねば相成ぬから、当月の末か、 或は二月早々に、難渋いたす者等に遣はす事になれば宜いのぢや』  『宜しうございます、白米を買つて其米を遣はすのは、却つて面倒で もございますし、また非常に混雑を致さうかと存じますから、仮に一軒前      づゝ に金子一朱宛として、まづ一万軒の者へ与へる事にいたしませう、唯今か                           きつて ら用意に取掛りまして、兎も角も一朱の金と引替へにする証券を拵へまし          まきちら て、夫れを貧民共へ撒布して遣る事にいたしませう』  『何さま夫れが宜しからう、其辺の事に一切貴公に一任いたすから、        万事都合よく行つて下さい』    かしこ                    したゝ  『畏まりましてございます、併し先生、其証券に認めまする文言の御 草稿を願はれますまいか』  『ナニ夫れはどうでも宜いから、貴公が宜い様に書いて見て下さい』  『左様なれば一寸下書をして見ませう』                    やが  平八郎の面前で、喜兵衛は筆を取上げ、軅て一枚の白紙へ書きましたる 文言は。           口  上  近年持続き米穀高直に付、困窮之人多く有之由にて、当時御隠退大塩  平八郎先生、御一分を以て、御所持之書籍類不残御売払被成、其代金  を以つて、困窮之家一軒前に付き金一朱づゝ、無急度都合家数一万軒  へ御施行有之候間、此書附御持参にて、左之名前之所へ早々御申請に  御越し可被成候   但し酉二月七日安堂寺町御堂すぢ南へ入東側   本会所へ七ツ時迄に御越可被成候                   河内屋 喜兵衛                   同   新次郎                   同   紀一兵衛                   同   茂兵衛




石崎東国
『大塩平八郎伝』
その103大塩施行札」

「近年持続き」は
「近年打続き」が
正しい


『大塩平八郎』目次/その57/その59

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