Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.10.26

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その59

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十二席 (3)

管理人註
   

 『先生一応御覧下さいませ、斯様な事では如何でございませう』                  ○ ○ ○  と平八郎に見せました、此文中に無急度と云ふ事がございますが、之は 洩れなくと云ふのであらうと存じますが、原文のまゝで申上げますから其 思召しで……。          よろ  『フム、是れで宜しい、併し何にしても一万枚と云ふものを一々書い               はん て居ると云ふ事は出来ぬから、板に彫らせて摺らすが宜い』  『私も左様に存じます、是れから宅へ帰りまして、是れへ連名を致し                      は ん や ました者共にも見せましたる上、早速出入の彫刻師へ申附ける事にいたし ませう』  と喜兵衛は暇乞ひをして立帰り、親類の新次郎其他の者に委細を物語り    かね まして予て出入りをいたします彫刻師に注文して、印刷を為せました、斯 ういふものも今日だと活版でございまして、格別面倒ではないが、天保年                     せげう 間の事だから、矢張り木版でございます、此施行の引換札の大きさは、縦 が九寸二分に、横が四寸六分ばかりもございまするものを、一万枚摺上げ                   あらた て持つて参りましたから、厳重に枚数を検めまして、是れから河内屋喜兵            くろにく          なか/\ 衛は自分で一枚/\へ、黒肉の印形を捺しますなど、却々手数もかゝりま      あひだ すので、此間に数日を費やしましたが、扨すつかりと出来上つたやつを、              まきちら              きつて 今度は貧民窟に持つて往つて撒布しました、サア此証券を貰つた者は大喜   まる び、恰で日照つゞきの折から、夕立雨が降つたやうな有様で。  『源助さん、大塩様は実に我々の為めには、神様ですねへ』  『然うですとも、斯んな有難い事はありませんよ、来月の八日には、 一朱のお金が頂かれます』   あすこ  と彼処でも、此処でも、此施行の噂ばかりでございます、扨河内屋喜兵 衛の方では当日にならぬ前に、両替屋で六百五十両の金を、残らず一朱銀                               とても に取換へて置かねばなりませんが、是れとても一軒の両替屋では、到底む づかしうございますから、手分をして諸方の両替屋を頼んで替へて貰ひま したが、其中には此施行の事を聞き知つて、快く無手数料で替へて呉れる 家もあるが、また何にも知らない家もある。  『番頭さん、河喜さんでは何故斯う沢山、一朱銀が御入用であらうな』


石崎東国
『大塩平八郎伝』
その103

幸田成友
『大塩平八郎』
その111大塩施行札


『大塩平八郎』目次/その58/その60

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