Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.11.13

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その69

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十四席 (1)

管理人註
   

    ど う               をり  処が如何も此頃助次郎はソワ/\として居ますから、何か仔細のある事 だと思ひ。  『助次郎、お前此頃は何故そんなにソワ/\として居なさるのだね、                               ふか 夫れに御役所から戻ると、直に大塩先生の処へ往つて、必らず夜を更して                                  お帰りだが、先生のお宅だから宜いやうなものだが、毎晩/\何をして彼 んなに夜更しをするのだえ』  『ハイ夫れは何でございます、陽明学の御講義を拝聴いたしますので、 ツイ帰りが遅なりまして……』                  『お前、其御講義とやらを、然う毎晩続いてなさりもせまいぢやない か』  『イエ夫れが何でございます、其……私一人ではございません、小泉 だの瀬田、まだ他にも大勢の門人が申し合せまして、後素先生へお願ひ申 し、毎夜御講義を願つて居るのでございますから、決して此事に就ては、 御心配遊ばさんやうに……』  『そりやモウお前の事だから、遊里へ足を踏み入れるやうな事はある                        からだ まいし、又悪い遊びに夜を更すとは思ひませんが、身体の大切と云ふ事も 考へなければなりません、成程学問も大切ではあるが、余り勉強をして身   いた 体を害め、夫れが為めに御奉公に差支へを生じたり、また親に心配を掛け るやうでは甚だ宜しくはあるまいと、私は思ひます、夫れに去年の夏から、 御役も町目附に昇進して居る、目附と云へば大切な御役であるから、一層 身体も大切にせねばなりません、お前はまだ年の往かない時であつたから、           をつと         おとう 覚えはしまいが、私の良人、お前の為めには阿父様の助左衛門様が御臨終  とき                   を れ      つぶ の際に、私を枕許へお呼びなすつて、今にも乃公が眼を瞑つたらば、助次                    きづ 郎の養育を頼む、必ず/\平山の家名に、瑾を附けるやうな事を為せて呉 れるなとくれ/゛\の御遺言であつた、何もお前が、家名に係はるやうな 事をして居るのではないが、万一にも心得違な事があつてから、幾ら云つ ても後の祭で、何の役にも立たぬ、能く阿父様の御遺言を守つて下さいよ、     くど         い サア余り諄く云つても可けないから、今日は機嫌よく御役所へ出勤をなさ い』  『段々との御教訓、有難う存じます、では御機嫌よろしう』              いつも  と挨拶をして、助次郎は、例の通り東町奉行へ出勤いたしました。


幸田成友
『大塩平八郎』
その104

『塩逆述』
巻之五
その12


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