Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.11.14

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その70

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十四席 (2)

管理人註
   

             やしき      ひとま  お話し変つて大塩平八郎の邸宅では、奥の一室へ徒党の人々集つて評定 の真最中でございます、処へ格之助が入つて来たのを見て平八郎は。        いよ/\             かね  『格之助、愈 事を挙ぐるに決したに就て、予て其方に書かせて置いた アノ軍則を、此処に居らるゝ人々に読み聞かせるが宜い』      かしこ  『ハア畏まりました』  と格之助は座を立つて行きましたが、間もなく一通の書附を携へ来たつて、 一同に向ひ。  『父平八郎が今度の企てに就いて、作戦は隊を三軍に分ち、斯くの通り 人員を定めましたから、此段、御承知下されたい』         かたち  と云ひながら、容を正しまして。  『第一軍、即ち先手として大将大塩格之助、大井正一郎、庄司儀左衛門、                             なかそな 是れには木箇一挺、大筒二挺、従ふ者は約一百人、第二軍……中備へとして 大将大塩平八郎、渡辺良左衛門、宮脇志摩、近藤梶五郎、白井幸右衛門、橋 本忠兵衛、茨田郡次、深尾次平、安田図書、植田孝太郎を大将分とし、杉山 三平、西村利三郎、高橋九右衛門柏岡伝七、同じく源右衛門、志村周次、堀 井儀三郎、木村司馬之助、阿部長助、曾我岩蔵、松本隣太夫等は是れに属し              うち て、木筒一挺、但此中備への中より、機に臨んでは後陣に加はるべし、尤も           ひき 是れにも五十名の者を率ゆ、第三軍、即ち後軍としては、瀬田済之助を将と して、小泉淵次郎、平山助次郎を副将と定め、竹上万太郎、横山文哉、服部 亮一、馬淵丑五郎、猪飼伝八郎、其他二百人、木筒一挺、また鉄砲支配役と して猟師金助を召連れる事』  と読み了りますと、平八郎は。  『今格之助が読み上げたる処のものは、今より数日前に認めさせたもの                     でござるから、其後に同意せられた諸氏は未だ記名してはござらぬ、いづれ            したゝ              おの/\ 今夜中に取調べて、更に認めさせる筈で居る、また人数は 各 も御承知であ      かすがえ らうが、滓上江村、般若寺村、北寺方村、尊延寺村、守口町からは必ず馳せ 加はる事になつて居る、其外に泉州、また河内などからも来るには相違ない、 然すれば一千騎位にはなると思ふ、ナニ夫れが俗に云ふ枯木も山の賑ひで、                      うち 人数さへ多ければ勝を制し得る事は、吾方寸の中にある、また夫れに予て手 馴付けて置いた、渡辺村の者も来るに違ひない、彼等は必死の働きをするか                    おの/\ ら、一騎が十騎にも当るであらうと思ふ、各 にまだ見せ置く品がある』                                しま  と平八郎は立つて床の間の横なる、地袋戸棚の中から、巻いたまゝ収つて ありました大旗小旗、幟などを取出し。  『各是れを御覧あれ』                  はゞ       まんなか  とサツと押開いたのは、白木綿を三巾継ぎ合して、中央には天照皇大神、                       いだ 左右にに湯武両聖主、東照大権現と墨を以て染め出せしもの、其他に救民と 染めたるもの数流と、大塩の家の定紋、五三の桐と二ツ引の旗数流でござい ます、また其外にも幟が沢山ありましたが、是れには加勢に来る近郷村々の 村名を染めたものでございます、此旗幟の類はいづれも靭油掛町、美吉屋事、 通名更紗屋五郎兵衛方で、秘密にこしらへたもので、此五郎兵衛の妻お常と                          あ ね 云ふのは、大塩平八郎の妾でございました、おゆうの義姉で、其縁故から平             まじはり 八郎と五郎兵衛は、親しき交際をして居ります、夫れが為め、此五郎兵衛の 手で、提灯だの其他、今度の計画に就ての必要品を買入れ密かに大塩の屋敷 へ運んで居たのでございます、今日大塩平八郎の屋敷に集まつたる処の一味 やから          けんぶん の輩は、此有様を見聞いたして、何れも勇み立、尚ほ様々に軍議を凝らして、 其夜の中に帰宅する者もありましたが、大抵は大塩の屋敷で夜を明かしまし た、前夜は大雨が降りましたが、十七日の朝は快晴となりましたので、一味                    めい/\ の人々も夫々心づもりがございますから、各自が家に立帰りました、



石崎東国『大塩平八郎伝』 
その116
























































































湯武両聖


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