Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.11.21

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その76

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十五席 (5)

管理人註
   

     はか           いろ/\  『今日慮らず参つたアノ矩之允、種々説き付けても承知を致さぬ様子、    はじめ 斯くと最初に知るならば、大事を漏らすのではなかつた、併し余人とは違 つて矩之允に限つて決して他言すべきやうな人物ではないが、他言いたさ ぬからと申して、今日の場合、そんなら宜いと云つては帰されぬ』          ごもつとも         ほゞ  『先生の仰せ御正理、併し先刻略承知いたしたやうに見受けましたか ら、今一応我等よりして説き勧めましたらば』           だ め  『イヤ/\モウ無益だ、モウ何も云はつしやるな、大勢の者の為めに は替られぬと決心した』  『其御決心とは』  『不憫ではあるが、生して置く事は出来ぬ』  と大井正一郎の耳に口を寄せて。                                   『貴公の手で早く打止めて貰ひたい、一味の者の気を励ますには、渠           ちかみち れを討取るのが何より捷径でござる』  『ハツ、夫れでは直に』  と大井正一郎、追取り刀で立上るのを見て、平八郎は。  『アゝコレ/\、宇都木は若年なれども、腕に覚えのある男ぢや、サ ア、此槍を持つて』   なげし  と槍架に掛けたる処の槍を取り下して、鞘を払つて差出した、心得たり          もゝだち       くだん と大井正一郎、袴の股立取るより早く、件の槍を小脇にかい込んで、廊下 伝ひに離座敷へと駈け行きました。  『安田、貴公は万一逃げ出ださば、引捕へる用意をさつしやい』  図『ハツ』                  さげを  と云つて安田図書は、是れまた刀の下緒を取つて襷に掛け、手取に為さ                             したゝ んと用意をして居りました、扨宇都木矩之允、首尾よく遺書を認めて、岡 田良之進に持たせ、今裏口より落し遣りましたから、モウ是れで安心、此 上は今一度、後素先生に諫めを容れ、用ゐなければ、面前に於て切腹し、                  も と 己れが潔白を示さんと覚悟を致し、以前の小座敷へ立戻らうとしたが、折                 わき ふし便通を催しましたので、廊下の側にありました便所に入つて用を達し、          てうずばち 立出でて、今や石の手洗鉢の傍に立寄つて、檜杓を手に取上げ、水を汲み、 手を洗はうとして居る処へ駈け来つたる大井正一郎。  『宇都木氏、貴公の一命は先生に捧げられよ』               あばら  と云ふより早く矩之允の左の肋をブスり、槍突通した、アツと一声叫ん で其処に倒れたる矩之允、素より死ぬる覚悟でございますから。  矩『素より覚悟、存分にさつしやい……』



石崎東国
『大塩平八郎伝』
その113

森 繁夫
「宇津木静区と
九霞楼
 


『大塩平八郎』目次/その75/その77

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