Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.11.26

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その81

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十六席 (5)

管理人註
   

 『ナニ一大事、如何なる事かは知らぬが、一大事とは容易ならぬ事、         あちら 今面会いたすから彼方で待たせて置け』  『ハツ』                         はふ  と云つて立去りました、山城守は衣服の上に羽織を被りまして、書院の               まつさお 間へ来て見ると、平山助次郎、真蒼の顔をして両手を突いて居ります。  『助次郎、夜陰に来りしは、如何なる用件ぢや』  『恐れながら、密々申し上げ度き儀がございまして罷り出でましてご ざいまする』         がゝり  山『密談とは心掛、誰も傍には居らぬから、何事か申して見よ』  『当時隠居をいたし居ります大塩平八郎には、先達てより密謀を企て、 徒党を集め明十九日、御前を初め、西町奉行堀伊賀守様の御巡見を期とし、 おんやすみどころ 御休憩所に入らせらるゝを合図に、御両君を討取るべき手筈にございます』  是れを聞いて山城守は、一時に酒の酔ひも醒め、思はず膝を進ませまして。          どう  『シテ其方は、如何してかゝる大事を知つたのぢや』  『実は私も、渡辺良左衛門に説き勧められ、一旦は一味に加はりまし たけれども、母の異見に先非後悔、改心仕つり、此段御訴へ申し上げます る』  と頭を下げました、跡部山城守は始めて知つたる平八郎の密謀に打驚き まして。  『能くこそ其方改心して訴へ出でた、徒党の人名は誰々であるか』  『其儀は唯今……』      しか  『何は然れ、其方には早速申し附くる事がある、暫時別間にて休息い たせ』  と云ひながら手を打ちますと、野々村次平が出て参り。  『ハツ、何か御用で』  『次平、此助次郎を彼方で休息いたさせい』  『ハツ』          『能く気を注けて遣はせ』                  と云ふのは、此平山助次郎が、斯かる一大事を訴へ出ましたが、一旦は         かど 平八郎に同意した廉で、自殺でもしては相成らぬと思ひ、そこで気を注け て遣はせと注意をしたものでございます。



石崎東国
『大塩平八郎伝』
その113

『塩逆述』
巻之五
「その12」
 


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