Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.11.27

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その82

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十七席 (1)

管理人註
   

           たゞち       したゝ  扨是れより山城守は、直に長々しき密書を認めまして、善之助を呼出し、 夜中ではあるが、西町奉行、堀伊賀守の役宅まで其密書を持せ遣はし、尚 ほまた別に一書を認めまして、助次郎を呼出し。  『其方唯今より、直ぐに江戸表へ出発いたし呉るゝやうに』      かしこ  『ハツ畏まりましてございます』  『此一書を携へ、道中を取急ぎ、江戸表へ罷り越し、勘定奉行矢部駿                    さ と 河守殿へ出訴に及べ、平八郎一味の者に推知られては相成らぬぞ』  山城守は一包の金を取出しまして。     こ れ  『此金を路用として、道中を急いで行け』  『委細承知仕りました』                    やしき  と助次郎は奉行の役宅を立出で、一旦我邸に立帰り、母親に斯々と物語 りをして、邸を立出ましたのは、彼是四ツ時分、今日の午後十時頃でござ います、此助次郎は其後廿三日に、東海道今切の渡しを渡つて居ります時 に、大阪表に大火があつたと云ふ噂を聞き、是れよりは一層路を急ぎまし たが、何分大井川出水の為め川留に遭ひ、漸く二月廿九日の夕方に、江戸   ちやく 表へ着いたし、直に矢部駿河守の役宅へ参りましたが、其時に駿河守には、 大阪事変の大要を聞き知つて居りました。                                 あがり  そこで助次郎を呼寄せて一応取糺し、大切な訴人でございますから、揚 屋入を申し附けられました、是れは後のお話しでございます、此方は堀伊                     やちゆう 賀守、跡部山城守よりの報らせに打驚き、何分夜中でございますから、俄 に騒ぎ出し、両町奉行が打合せをいたし、平八郎等逮捕の手配りに取掛り まする、然る処、茲にまた東組の同心、吉見九郎右衛門の忰、同苗英太郎、 河合郷右衛門の忰、同苗八十次郎の両人は、支配違ひの西奉行へ、十八日 の夕暮早々出頭いたし、堀伊賀守に面会を乞ひました処が、伊賀守の方で は定めて大塩の一件であらうと察し、早速対面致しますと、両人はいづれ も父の命を受け、大塩平八郎の陰謀の次第を告訴状に認め、是れに例の檄 文の印刷物と、一味徒党の姓名を書記したるものを添へて差出しましたか ら、伊賀守は両名の者を留置き、早速使者を以つて東の跡部山城守へ、両                               あらた 人が持参の品を持たせ遣はしました、山城守は其徒党の者の姓名を検めま すと、其夜宿直の与力小泉淵次郎、瀬田済之助の両人も一味に加はつて居             にはか りますから、大いに驚き、俄然に公用人野々村次平を呼出しました、次平          かへりちゆう は既に平山助次郎の反忠に依つて、今度の事変を存じて居りますから、夜 中と雖も決して油断はして居りませぬ、早速主人の御前へ出まして。              しゆつたい  『何かまた過急の御用、出来仕りましてございますか』  『次平、今日の泊番は小泉淵次郎、また瀬田済之助であらうな』  『御意にございます、両人共詰所に控へ居られまする』  『次平、是れを見よ』  と云つて山城守は、一味徒党の姓名を写したる書附を見せましたから、 次平も驚きました、山城守は小声になりまして。                    すか    さ と  『其方は淵次郎、済之助の両人を甘く賺し、推知られぬやうに、予の 目通りへ連れて参れ、予が一応取調べを致さねば相成らぬ』      かしこ  『委細畏まりましてございます』



石崎東国
『大塩平八郎伝』
その113

『塩逆述』
巻之五
「その12」


『大塩平八郎』目次/その81/その83

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