Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.11.28

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その83

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十七席 (2)

管理人註
   

                    べ や         あと  次平は御前を退り、両人の居ります宿直部家へ参りました、其後で山城 守は他の家来を召出し、両人の者を召捕る用意を申附けましたが、斯うい ふことゝは神ならぬ身の知るに由なく、小泉と瀬田の両人は、大塩平八郎 の内意を受け、明早朝跡部山城守が巡見の為め役所を立出でたる跡にて、                     なか/\ 役所に火を放つ事を引受けて居りますから、却々安閑として居りません、      あつ 両人は額を鳩めて何事をか密議を凝らして居ります処へ、野々村次平が襖 を開けて入来り。                        めうにち  『御両所、御苦労に存じます、主人山城守様、明日御巡見の事に就き、 昼間にお打合せをなさる事を御失念なさいましたので、夜中気の毒ではあ るが、御両人に御用談の間まで、直お越下さるやうにとの仰せでございま す』  『左様でござるか、淵次郎殿、御一緒に』  『御同道仕らう』  と袴の紐を締め直し、一刀を手挟んで、次平と共に、御用談の間の手前、 畳廊下の処まで来ると、野々村次平が。  『アイヤ御両人、此処にて脇差を拙者にお渡し下さい』  と云はれて、両人は顔を見合せ。    なにゆえ  『何故脇差をお渡し申すのでござる』  『御奉行の仰せでござる、帯剣はお預かり申す』  『ナニツ』  と淵次郎は血相を変へ、扨は事露顕に及んだるかと、済之助に目配せを いたしますと、心得たりと瀬田済之助、脇差の柄に手を掛ける、野々村次 平も手早く着たる羽織を脱ぐと、下には下緒を以て襷を掛け、帯には十手 を挿して居る、モウ此上はと瀬田、小泉の両人、一度に脇差をスラリと引 抜いて、山城守の居間へ駈行かうとするのを見て、次平は合図の笛を吹き 鳴らした、此時襖の向ふに予て待搆へて居りましたる処の、跡部の家来四 五人、ガラリと襖を開けて入来り。  『御用だ、神妙にしろ』  と云ひながら、前後左右から、小泉、瀬田の両人を召捕へんとするを見 て、淵次郎は先きに進んだ跡部の家来に一太刀浴びせた、今日の如く電灯              ともしび だの、瓦斯のやうな明かるい灯火はない、尤もランプとてもございません 時分の事だから、行灯が倒れると、真暗がりになると云つたやうな訳、其 うち    き           とも 中に心利いたるものは、提灯を点して持つて来る、小泉は近寄る者を片ツ             きりころ 端から手疵を負はせ、或は斬殺して、血路を開き、此場を免れやうとして   うち 居る中、此物音を聞き付け、夜詰の者が八方より此処に集まりましたから、           かな 瀬田済之助はモウ所詮敵はぬと、裏の方へと逃げ出し、邸内の丑寅の隅に                  あが         から 稲荷の祠がございます、其社の屋根に昇り、塀を乗越えて、辛くも逃れ出 でました。



石崎東国
『大塩平八郎伝』
その112

幸田成友
『大塩平八郎』
その120大坂東町奉行所図丑寅
北東の方角


『大塩平八郎』目次/その82/その84

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