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新左衛門 ヤイ/\うづ虫め、コリヤ引かれ者の小唄とやらで、口からの
出たらめか、相役たる大塩殿も是に厶る、馬鹿つくさずと、きり/\
獄屋へうせおらう
城 内 イヤ、こんな時に尻持て貰うと思へばこそ、手下の奴等が、働い
た金を高二分はこなたの所へ納めるに、命の瀬戸に素知らぬ顔、夫
じやに因て何も角も打まくのじや
新左衛門 ヤア身に覚へなき其雑言、うぬ寧そ
〔ト 刀を持て立かける
平八郎 イヤ、お待被成、弓削殿。コリヤ大切なる詮議の科人、手討に召
さるゝ御所存かな
新左衛門 イヤ全く以て
平八郎 左様でなくばお下に厶れ○イヤ何八田氏、此科人獄牢の内へ
淵次郎 ハアヽ○誰かある引立い
○ ハアヽ
〔ト 四ケ所出て
四ケ所 立て
城 内 今日迄下に使つた奴等でも、斯うなりや仕方がない、いたはつて
貰ふぞや○ヲイ弓削の頭跡から早うごんせや
四ケ所 きり/\歩め
城 内 ドレ盛笊飯に有附うかい
〔ト 城内、四ケ所、淵次郎、橋掛りへ這入る
平八郎 木村司馬之助、申附けた品、是へ持て
司馬之助 ハアヽ
〔ト 奥より三宝に九寸五分を乗せ持て出る、大塩取て新左衛門の前に
置き
平八郎 イヤ新左衛門殿、御用意よくば
新左衛門 コリヤ腹切刀を某に突附て何とするのじや
平八郎 何とするとは愚かな一言、斯く計らひしは某が情けの計ひ○家が
大事か其身が大事か
新左衛門 ヤ
平八郎 新左衛門殿、情けない御所存じやナア○弓削、内山、大塩は数代
連綿たる家ネならずや、夫れに何そや身の慾に魂ひ奪はれ、盗賊よ
り賄賂を貪り、其身の栄花如何程包うと召されても口さがないは下
郎の癖、若しや奉行へ露顕とならば、逆磔は遁れぬ科、左ある時に
は、従類迄絶やさるゝは是必定、貴殿切腹致され、子息新之助を以
て弓削の相続致させなは、万代不易、承引なくば先祖代々家名を穢
し升るぞ
新左衛門 サア夫は
平八郎 但し屑く切腹あるか
両 人 サア/\/\
平八郎 何時迄生ると思はつしやるぞ、尋常に切腹召され
新左衛門 モウ此上は
〔ト 大塩に切てかゝる、一寸立廻りあつて平八、九寸五分を新左衛門
の腹に突込み
平八郎 遖れ切腹、ソレ司馬之助、介錯致せ
司馬之助 ハアヽ
〔ト 新左衛門の首を切る、上手障子家体より伊賀守見て居て
伊賀守 大塩が計らひ感心致した
平八郎 ハアヽ奉行職のお詞、恐入り奉る、新左衛門自滅の上は、新之助
を以て弓削の家督相続致させ度、偏に願上げ奉升る
伊賀守 イヤ、夜盗に組せし弓削新左衛門、跡目の義は罷成らぬ
平八郎 アイヤ、未だ盗賊に組せしとも不分明に厶れとも、悪名受けしが
残念さに切腹なしたる弓削氏なれば、罪の疑はしきは軽く計らふ、
天下の政道、まつた此事鎌倉殿の上聞に達しなば、両奉行職は固よ
り相家老の我々迄役義の怠り
司馬之助 武士たる者は相身互ひ、何卒家督の義
平八郎 お聞届け被下様、偏に願ひ
両 人 上奉升る
伊賀守 取上げ難き願ひなれども、其方等が願ひ、聞入れぬも本意にあら
ず、忰新之助に弓削の相続ゆるしてくれるぞ
両 人 エヽ有難う存じ升る
平八郎 コリヤ、木村、平山、此死首を弓削の屋敷へ持算致し、伊賀守様
の御仁誠、つぶさに申聞かして参れ
司馬之助 ハアヽ委細畏り奉り升る
〔ト 首を持て向ふへ這入る
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「大塩噂聞書」
(摘要)
寧(いつ)そ
厶(ござ)り
屑(いさぎよ)く
遖(あつぱ)れ
偏(ひとえ)
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