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平八郎 先達て某御願ひ申奉りし欠所金五万両、まつた難波蔵納り米借用
の義、如何相成升た、承り度う存じ升る
伊賀守 其義、只ならぬ願ひなれば、山城殿とも談合致したる所、欠所金
は格別、御蔵屋敷の囲ひ米の義は、鎌倉殿へ伺ひの上とある故、未
だ返答致し難し
平八郎 御尤には候へども、年々続く凶作故、民百姓が餓への有様、最早
半月一月も此儘に置く時は、大半餓へ死せんは必定、何卒下民お助
けの為、欠所金、納り米拝借の義をば
伊賀守 愚かなり平八郎、当国中の貧家の者に施行致すに、五万や十万両
の金子では、何のたしやくまつたお蔵米を取る出しなば、万一逆意
の者ある時は、何を以て籠城致すぞ
平八郎 サア其義は
伊賀守 アヽ聞へた、施行に事寄せ、お蔵米を奪取り、逆意を企て、兵糧
攻めに致さん工みか
平八郎 イヤ 全く以て
伊賀守 ヤア、主家に敵対、人非人、意見の為めカウ/\/\
〔ト 扇にて打つ
平八郎 ヤア身に覚へなき無体の難題、逆意ありとは証拠が厶るか
伊賀守 証拠は汝が胸にあるはさ
平八郎 何と御意被成るゝぞ、
伊賀守 大塩平八郎、鎌倉殿の上意
平八郎 ハアヽ
伊賀守 汝が願、心得難し、右評議の内閉門申附る間、急度蟄して御沙汰
を待て
平八郎 ハアヽ、閉門承知仕つて厶り升る
伊賀守 ヲヽ神妙なる其詞立て/\
平八郎 イヽヤ此場は立申さぬ、閉門承知仕れども、願出たる拙者が一條、
有無の御返答聞切て退出致す
伊賀守 ヤア、有無の返答いつて聞さう○借用の義は罷成らん
平八郎 左様あつては、下万民、餓へ死致すは今目前
伊賀守 天のひ是非に及ばぬ
平八郎 スリヤ、どの様にお願ひ申ても
伊賀守 くどい
平八郎 伊賀守様
〔ト 立かゝると
伊賀守 無礼者めが
〔ト 扇にて叩くと平八郎、下に居るが木の頭
平八郎 こなた様はなア
〔ト と両人宜しく誂らへの相方にて返し
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「大塩噂聞書」
(摘要)
厶(ござ)る
木の頭
(きのかしら)
幕切れの台詞や
動作のきまりに
合わせて打つ拍
子木の最初の音
誂(あつ)ら
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