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〔ト 侍、橋掛りより出て
侍 ハアヽ、お女中方、御上使様設けの席へお越しあつて、音曲の御
用意あられ升せうとの仰せで厶り升る
皆 々 委細畏つて厶り升る
〔ト 紀伊守、お次に見惚れて居る、侍這入る
梶五郎 イザ御上使様には設けの席へお越しの義
両 人 願はしう存じ升る○イザ御上使様
紀伊守 是は又けたゝましい、某は跡より参る、女共を伴ひ、両人には先
へ参れ
両 人 ハアヽ○イザ女中達
〔ト 皆々行かける
紀伊守 アヽコリヤ/\、待て/\
皆 々 御用で厶り升るかな
紀伊守 其次とやらを残し、跡の者は立て/\○ハテ扨立てと申に
皆 々 ハイ
〔ト お次を残し皆々這入る
紀伊守 月と迄見紛ふものは卯の
お 次 香り床しき賤か生垣
紀伊守 今を盛りの其方が姿、月とも花とも見紛ふ斗り、ハテしほらしい
卯の花じやなア
〔ト 両人色々あつて
お 次 アヽ、申、不束な私風情を、御上使様の悪い事ばつかり
紀伊守 ハテ禄の高下は入らざる遠慮、某が心にさへ随へば
お 次 私のお願ひを
紀伊守 聞届けいで何と致さう、サア願ひあらば何なりとも
お 次 其私のお願は
紀伊守 剣受取る某が役目、延引致してくれと申か
お 次 何とおつしやる
紀伊守 父大塩が言附にて、某へ近附、其延引を願へよとて参つたか、夫
とても其方の心一つ
お 次 そりやお心に随ひなば
紀伊守 ハテ猶予致して遣はさう
〔ト 奥の襖を明け、内山見て居て
彦次郎 イヤ延引の義はお願ひ申さぬ
〔ト 紀伊守、恟りして行儀を直し
紀伊守 其方は内山彦次郎、スリヤ勝時丸の短刀をば
彦次郎 一旦いひし詞は金鉄後とも申さず、此席にて○イヤお次殿、勝時
丸の短刀、御上使へお手渡し申と、御父親へ申伝へ下され
お 次 心得升た
彦次郎 然し此席にては余りさつきやく、次の間にて差上げ申さん
紀伊守 然らば案内
両 人 先お入りあられ升せう
〔ト 三人、宜しくこなしにて唄になり、此引張り宜しく返し
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「大塩噂聞書」
(摘要)
厶(ござ)り
恟(びつく)り
さつきやく
早却
すみやかなこと
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