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造物 二重両落間跡へ寄せて網代塀 後ろ金襖二はい
飾りに道具納る
〔ト 近習、雪洞を持ち、能所へ直し、又褥を敷き、這入る、内山出て
彦次郎 ソレ 之助、宝剣是へ持算致せ
之助 ハアヽ○
〔ト 三宝に錦の袋入の剣を乗せ、橋掛りより出て
之助 ハアヽ、勝時丸の御剣、イザお め被下升せう
彦次郎 イザ御上使様、御剣お受取り被下升せう
〔ト 後ろの襖を両方へ明ける、紀伊守出て
紀伊守 イデ剣を受取り申さん
彦次郎 イザ
〔ト 剣を渡す、紀伊守、 め見て
紀伊守 紛ふ方なき勝時丸の御剣、大岡紀伊守、慥に落手致した
彦次郎 ハアヽ
紀伊守 イデ此上は帰国致さん
彦次郎 ソレ各々、お見送り
両 人 ハアヽ
〔ト 近藤梶五郎、萩原弥九郎、橋掛りより出る、紀伊守、花道際へ行
き
紀伊守 然らば方々
弥九郎 御上使のお立ち
(向ふにて) ハアヽ
紀伊守 見送り太義
〔ト 皆々向ふへ這入る
彦次郎 ハアヽ、伊賀守様御見聞被成升たか
〔ト 伊賀守、奥より出て
伊賀守 汝が計らひ、感心致した、然し誠の上使の時は、鎌倉より後日の
お咎め
彦次郎 イヤ若しお祟りの其時は、某所存は○
〔ト 腹切る事をして忠の為には塵芥
之助 スリヤ、一命を捨てられても
彦次郎 大国を預り奉る内山が極意の所存
伊賀守 其心底に引替へて、大塩が心底、合点が行かぬ
彦次郎 大塩とても仁義の侍、下民を憐けむ此度の願ひ、御聞届け被成し
かな
伊賀守 イヤ施行を言立、逆意の萌し、鎌倉殿へ伺ひの内、閉門申附け置
たわい
彦次郎 ハテなア
〔ト 向ふより侍一人走り出て
侍 ハアヽ、申上升る、先刻の御上使様、又候お入りとのお先触れに
厶り升る
伊賀守 ハテ、心得ぬ上使の有様、某は大塩に尋ね度義もあり、其方よき
に取計へ
彦次郎 何は兎もあれ、お出迎ひ
〔ト 伊賀守、奥へ這入る、彦次郎、 之助、橋掛りより司馬之助、弥
九郎、良左衛門出て並ぶ、向ふにて
○ お入り
〔ト 向ふより紀伊守、ツカ/\と出る、又兵衛、佐左衛門、附て出る
紀伊守 内山彦次郎は何れにおる、上使へ対して、無礼の挙動、罷出升せ
い
彦次郎 コハ心得ざる上使のお詞、内山彦次郎は此所に扣へあり、何はと
もあれ
皆 々 先々是へ
紀伊守 ヲヽ罷通る
〔ト 舞台へ来る
之助 一旦御帰館ありし御上使の、又候御入来は何共以て合点参らぬ
彦次郎 殊更御性急なる御顔色、其子細、イザ承り度う
皆 々 存じ升る
紀伊守 彦次郎、東国武士と侮りたる、汝が計ひ、鎌倉殿を蔑ろなる致し
方、此由上聞に達しなば、当国の一乱と存ぜし故に、取て返せしは
予が情、夫とも汝に所存あるや
彦次郎 恐れながら鎌倉殿を蔑ろに致したる覚へ更になし、殊更御上使へ
無礼とては
紀伊守 ヤアいふな、内山、当錦城に預りある勝時丸は其品か
彦次郎 ヤ
紀伊守 紀伊守を盲目と思ひおるか、コナうつけ者めが
彦次郎 如何にも其許様に差上る勝時丸は此剣が分相応さ
紀伊守 何と
彦次郎 大岡紀伊守と偽つて、勝時丸をかたり取らんとは浅どい工み
紀伊守 ヤア直参の某に詞が過る、すさりおらう
彦次郎 直参たる身を以て、先刻内見の其時に、贋物を見て勝時丸正銘と
はなぜ申た
紀伊守 ヤ
彦次郎 まだ此上にあらがへは、遁れぬ証拠、三平参れ
三 平 ハアヽ
〔ト 向ふより走り出る
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「大塩噂聞書」
(摘要)
雪洞
(ぼんぼり)
厶(ござ)り
蔑(ないがし)ろ
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