|
紀伊守 ヤヽそちや鹿蔵、此体は
三 平 愚かや吉五郎、日外より汝が有家馬士となつて尋ぬる内、九條村
にて出くはし、態と汝が一味となつて実否を探るに、案に違はず八
坂の強盗、幻の吉五郎、斯いふ我は大塩平八郎が若党三平といふ者
彦次郎 斯く証人のある上は、きり/\かたりと申て仕舞へ
紀伊守 サア夫は
彦次郎 但し踏附け縄うけやうか
三 人 サア/\/\
彦次郎 爰を何所と心得おる、忝くも大坂の殿中なるぞ、無礼者め、下り
おろう
〔ト 蹴落す
紀伊守 とう/\一番やりそこなつた○
〔ト 刀を取り、上の着物を脱ぎ、じよらを組み
紀伊守 ヲヽ、内山どん、成程爰へかたりに来たのだ、実はおりや京の生
れで、餓鬼の折から手癖が悪く、賽銭箱から取上げた悪事も今じや
功が積み、勝時丸といふ刀、そいつを一番巻上げやうと、着附も仕
ない上下も金拵らへの大小も、亜鉛滅金の剥易く、地金は赤の道楽
者、悪い事なら月代の五分でもすきのねへ様と、紀伊守といふ名か
ら、髪仕立の大髢、曲つた心の刷毛先を、油を附けて真直に立、役
仕込みの偽上使、一盃喰はせた狂言も、斯う見出されたら元の木阿
弥、今日爰に居て、又明日は形を変へて、人の目をくらます故に、
幻と異名に取たお尋者、吉五郎とはおれが事だ
之助 ヤア存外なるあふれ者、イザ此上は召捕て、一味の者共白状させ
ん
紀伊守 エヽ喧ましいわい、がらくため、うぬ等を相手に仕ねへのたせ、
是からは内山どん、おめへとおれの相対づく、仮令仕事がばれ様と、
勝時丸を渡すとも、金と転んで一箱か二箱位の骨折りを、おれに寄
越して扱ふとも、其返事を聞かない内は、貧乏ゆるぎも仕やしねへ
彦次郎 ヲヽ、其返答致してくれん、ソレ
〔ト 捕手大勢出て
大 勢 動くな
紀伊守 何を
〔ト 立廻りあつて上手の井戸へ飛込む
之助 ヤ曲者めは
皆 々 空井戸へ
彦次郎 済之助は跡追駈けよ
済之助 心得升た、ソレ
〔ト 井戸へ這入る
彦次郎 近藤、萩原両人は四門を堅めて捕逃すな
〔ト 皆々這入る
之助 合点の行かぬ、彼が人相、正しく彼は今川の
彦次郎 アコリヤ○荒立なば国の大事
之助 密かに召捕り、篤と実否を
彦次郎 油断ならざる世の有様○
〔ト 顔見合すが、木の頭
彦次郎 ハテなア
〔ト 是にて宜しく浅黄幕を冠せる返し
|
「大塩噂聞書」
(摘要)
態(わざ)と
忝(かたじけな)く
じよら
あぐら
髢(かもじ)
木の頭
(きのかしら)
幕切れの台詞や
動作のきまりに
合わせて打つ拍
子木の最初の音
|