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造物 平舞台 向ふ中遠見城の塀外 其傍城の堀の体、所々に杭を建
て、是に縄を引張りある城の北手、鴫野口の心にて、塀の能き所に登
り松あり、道具納る
〔ト 松の木を小楯に、子役吉之助の拵らへにて、頬冠りして口に剣を
くはへ、出て下りかけると跡より子役の三平下り、一寸剣を取合ふて、
前なる堀へ組合なからはまる返し
造物 中遠見折れて、城の遠見宜しく、道具納る
〔ト 五郎兵衛、跡より手代、舟上りの摸様にて向ふより出て来り
五郎兵衛 ヤレ/\汐時が悪い故、とほうもない所へ上げられて困つたの
う
手 代 左様で厶り升
五郎兵衛 マア早ういなうか
〔ト 両人舞台へ来る、堀の内にて音する故、両人小隠れする、堀の内
より吉五郎、三平、剣を取合ひながら出で、色々挑み合ふて、吉五郎、
剣を持て逸散に向ふへ這入る、五郎兵衛、手代、前へ出て、三平が落
したる守袋を拾ひ上げ
五郎兵衛 コリヤ覚へのある弟三平が幼ひ時の守袋、そんなら今のは弟で
あつたか
手 代 モシ何で厶り升る
五郎兵衛 エヽ○
〔ト 突飛ばすと、土産物の土瓶を手代落すが、木の頭
五郎兵衛 恟りするわい
〔ト キザミにて明方の体、烏鶏啼く、日の出になり派手なる唄にて宜
しく幕
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「大塩噂聞書」
(摘要)
厶(ござ)り
木の頭
(きのかしら)
幕切れの台詞や
動作のきまりに
合わせて打つ拍
子木の最初の音
恟(びつく)り
キザミ
刻み
拍子木を短い間
隔で連続して打
つこと
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