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〔ト 門の内にて
弥四郎・善之丞 サア/\お越し被成れ/\
〔ト 両人、お次を引張り、お律、附て出て
お 律 申々貴君方、何と被成升るぞいなア
弥四郎 何とせうぞい、家中一統に評判の大塩殿の御息女
善之丞 我々此小山屋で一盃呑み升るから、失礼ながらお酌をお頼み申
お 次 アヽ申、今日はちと心願が厶り升て天神様へ御参詣致し升たれば、
どうぞお免るし被成て被下升せいなア
〔ト 忠兵衛、小隠れして見て居る
お 律 夫々今お次様のおつしやる通り、大精進で厶り升
れば、お酌などはなり升せぬ/\、サア早うお出被成升せ
弥四郎 どつこい滅多に逃してたまるものか、サア来給へ/\
〔ト 両人にてお次を引張る、忠兵衛、中へ這入り
忠兵衛 マア/\お待被成て被下升せ
お 次 オ其方は忠兵衛殿
忠兵衛 イヤ存じ升せぬ、通りかゝりの者ナ○ソレ通りかゝりの者で厶り
升るが、あんまり見兼て御挨拶に出升て厶り升る○私に任せて黙つ
てお出被成升せへ
弥四郎 ヤイ土堀め、なぜ邪魔致すぞ
善之丞 但しわれは縁者か
忠兵衛 滅相もない、誰あらう大塩様のお娘御様、百姓づれに縁者があつ
てよいもので厶り升う
弥四郎 然らば何故止立致す
忠兵衛 サア御酒の上とは申ながら、余りの御無体、相手は女の事、お免
るし被成て被下升せう、なればハイハイ有難う存じ升る
弥四郎 否だ、ならぬ、一旦いひ出したからは、酌をさゝねば武士が立ぬ
善之丞 うぬ、入らざる所へ出しやばると、カウ/\/\
〔ト 叩く、矩之丞、門の内より出て、是を見て、両人を見事に投げる
弥四郎 アイタヽヽヽ○うぬ素浪人め、
善之丞 何故我々を手込めに致す
矩之丞 ヤア、素浪人とは慮外千万、萩原弥四郎、清水善之丞、某を見忘
れたか
両 人 ヤ誠に汝は
矩之丞 以前は同じ家中の武士、宇津木矩之丞、失念を致したかい
弥四郎 如何にも存じておるが、其矩之丞が我々を
善之丞 なぜ此所へ投附けて
矩之丞 ヲヽ投げてくれたは拙者が寸志
両 人 とは又なぜ/\
矩之丞 都て両腰たばさむ者は、夏は日表、冬は日蔭とよけて通るが是定
法、夫に何ぞや、此大道を我物顔で我儘横行、汝等如きに誰か恐れ
ん、皆帯刀に恐るゝを、われに恐ると心得違ひ虎の威を借る狐め等
が
弥四郎 ヤア、いはせて置けば出る儘の過言、其分では捨置かれぬ
善之丞 命惜しくば詫致せ、アノ爰な慮外者めが
矩之丞 以前は同じ朋友でも、お暇受けて武者修業に出たれば、行衛定め
ぬ天竺浪人、サア宇津木矩之丞が相手になる
弥四郎 アヽ是はしたり、矩之丞殿、何もお相手になると申ておるのでは
厶らぬ
善之丞 先刻より、御挨拶は承知仕ると申ておるでは厶らぬか
矩之丞 然らば御両所共に御得心が参り升たかな
弥四郎 参つたとも/\、此場は無異にお別れ申
善之丞 とはいふものゝ
弥四郎 ハテ扨厶れと申す
〔ト 両人向かふへ這入る
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「大塩噂聞書」
(摘要)
厶(ござ)り
詫
(わび)
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