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矩之丞 ハヽヽヽうつけた奴もあればあるものじやなア
忠兵衛 どうなる事かと存じており升たに
お 次 貴君様のお越し被下升たのは
お 律 本に地獄で仏とは此事で厶り升せう
三 人 有難う存じ升る
矩之丞 是は/\お礼、痛入升る
〔ト お次、矩之丞に見惚れて居る
忠兵衛 申、お武家様、最前此手紙を拾ひ升たが、とんと読め升せぬ、一
寸御覧被成ては被下升せぬか
〔ト 矩之丞、取て聞き見て
矩之丞 天より下し候村々者共へ示し是ある文、四海困窮致し、天禄長く
絶へん事は其昔聖人深く天下後世の君、人に臣たる者を誡め置候上
たる人は下民に憐みを加へべきは、是仁政の基なり、爰に二百四五
十年、太平の間に、追々上たる人、奢を極め候故、四海の困窮と相
成候は、是天災なり、因て五穀違作に相成候は、是皆天より警め給
ふ御告げに候へども、一向に心も附ず、町中の金持共、年来諸大名
へ貸附け候利徳の金銀、扶持米を莫大に掠取り、有福に暮らし、田
畑を夥しく所持致し、結搆なる物を喰らひ、妾宅へ入込み、高価の
酒を湯水を呑むも同然の行ひは、何事ぞや、是に因て天下の為と存
じ、此度有悪の者共を誅伐致し、引続いて金持の町人共を誅戮に及
び、金銀米銭、諸蔵に隠し置く俵米を取出し、摂河泉播の困窮の者
へ遣はし候間、大坂騒動起り候へば、早速数里を厭はず、一刻も早
く馳参るべく候、其内器量才力の者は夫々に取立、無道を征伐の軍
役に取立、無仁共を亡し、寛政大度の御代と致候、我々が誠心、疑
はしく思候はゝ、所業終るの日を、汝等眼を開いて顧みよ、但し此
書、小前の者共へは、道場坊主、或は医者等の者、篤と読聞せよ、
若し庄屋年寄、眼前の禍を恐れ、此文隠し置くに於ては、追て其罪
を行ふべき者也、天保八丁酉年月日、摂河泉播村々庄屋年寄百姓、
并に小前百姓の者共へ○コリヤ是師匠の手に能う似てある○イヤ此
落し文、暫時御預け被下まいか
忠兵衛 そりや私が持ており升たとて仕様のないもので厶り升、左様なれ
ば、御浪人様
矩之丞・忠兵衛 是にてお別れ申升る
〔ト 下手へ這入る
矩之丞 誠に是は師匠の手跡、貧民を救ふ其心は、反逆の企て
お 次 迚も女子に生れたからは
お 律 どうぞ彼方を聟様に
矩之丞 御諫言申上げ
お 次 お願ひ申た其上で
矩之丞 お聞入れなき其時は
お 律 私もしつかり帯締て
矩之丞 たつた一討
お 次 貴君を
お 律 エ
矩之丞 アイヤ○
〔ト 木の頭
矩之丞 お別れ申
〔ト 三人、宜しく返し
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「大塩噂聞書」
(摘要)
厶(ござ)り
大塩檄文
有悪
「有志」
が正しい
木の頭
(きのかしら)
幕切れの台詞や
動作のきまりに
合わせて打つ拍
子木の最初の音
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