|
造物 二重襖、通り 石摺の唐紙
上手 障子 家体 下手 屋敷塀
例の所 切戸 都て大塩屋敷の体 誂らへの相方にて道具納る
〔ト 五人組の組頭、跡より両人、酒肴を持て出る
作兵衛 御免被成て被下升せ
三 平 何方様で厶り升るな
〔ト 出る
作兵衛 ヘイ、私めは天満池田町の五人組の者で厶り升るが、先達て御恩
に預り升たお礼に、玄関よりは如何と存じ、お庭口より参り升て厶
り升る、誠に麁品では厶り升るが、御受納被下升せうなれば、有難
う厶り升る
三 平 是は/\御丁寧に御進物只今旦那様には御他行の事なれば、お預
り申置くで厶り升せう
作兵衛 夫れは有難う存じ升る、旦那様へ宜しくお執成、お願ひ申上升る
〔ト 三人這入る
三 平 イヤモウ、旦那様へ方々よりの御進物、断りいふのもほつとする
わい
〔ト 向ふより喜助出て
喜 助 ヘイ御免被成下升せ
三 平 ヲヽ喜助殿、能う厶り升た、マア莨でも呑ましやれ
喜 助 ヘイ/\有難う厶り升る○扨三平様、思ひがけない旦那様の此度
のお身の上、一度お見舞申上る筈では厶り升るか
三 平 今日は内々の御用があつて、お忍びにて御他行になつたが用があ
らば、暫く待つたがよい
喜 助 ヘイ、此間はお律殿がお出被成て、何やら御用が厶るとの事故、
参り升たが
三 平 其御用は旦那様が御所持被成る洗心洞の書物、又茶器等を売払ひ
度い様におつしやつて厶つたが、大方其事でなあらうわい
喜 助 其洗心洞といふ書物は、旦那様が大切に被成て厶る品では厶り升
せぬが
三 平 ヲヽさ、旦那の身にも代へぬ書物じやが、余り困窮の者が多いか
ら、施行しておやり被成るゝのさ
喜 助 是は御仁心な旦那様、下々の為には神様同然じや
三 平 まだ外に御用もある様にいふて厶つた故、奥様に承はるがよい
喜 助 どうぞお取次をお頼み申升る
〔ト 両人奥へ這入る、向ふより平八郎、網笠を着て出て
平八郎 只今立帰つたぞよ
〔ト奥よりお勇出て
お 勇 是は/\旦那様、お帰りで厶り升るか、お忍ひの御他行なれば、
定めて慵く思召升るで厶り升せう
平八郎 イヤ斯くいふ身の上は浪人同然、何も屈托とてはなし、却つて保
養になるといふものさ、ハヽヽ
お 勇 おつしやれば左様な物で厶り升る○先達て呼に遣はされ升たる古
手屋喜助が参つており升る
平八郎 夫は幸ひ其方は奥へ参り、喜助を是へと申せ
お 勇 畏り升た
平八郎 何者も此所へは無用と申せ
お 勇 ハアヽ
平八郎 律に酒肴を持参致させよ
お 勇 畏り升て厶り升る
|
「大塩噂聞書」
(摘要)
誂(あつ)らへ
厶(ござ)り
慵(ものう)く
|