Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.10.31

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『演劇脚本大汐噂聞書』
その24

重扇助

中西貞行 1894

◇禁転載◇

四幕目 天満天神前の場 同大塩屋敷の場 千日前法善寺前の場 (6)

管理人註
  

  造物 二重襖、通り 張交せの唐紙   上の方に床の間あり、此前荒菰を敷、白木の三宝の上に短刀を箱に入   れ、錦の帛紗にて包み飾ある   上手 落間板塀、此前柴垣 雪見灯篭 例の所 異風なる入口 都て   数寄屋の飾附け   二重に吉五郎、酒を呑んで居る、傍に喜助、酌をして居る誂らへの相   方にて道具留る 喜 助 先生、最一つお上り被成升せ 吉五郎 イヤ/\喜助殿、今宵は肴が厶らねど、遠慮なしに呑で下され、    此盃は献じ升せう 喜 助 ヘイ、頂戴致すで厶り升せう○  〔ト 酒を呑みながら扇を見て 喜 助 モシ先生、是に厶り升る扇面は、貴君の画で厶り升るか、一寸拝    見を 吉五郎 イヤ、是は拠なう頼まれて、慰み旁致したが、扇面抔は素人には    書けぬもの、思はず肩を凝らし升た 喜 助 ちつとお肩を叩き升せうか 吉五郎 イヤ、今に按摩が参れば取らすで厶らう  〔ト 下手よりお雪出て来り お 雪 吉之助様、お内にお出被成升たかいなア 吉五郎 誰かと思へばお雪殿、悪い場所へ 喜 助 エ 吉五郎 イエ、今頃何所へお出被成た、夜分の事故、早うお帰り被成升せ お 雪 イエ、私しや貴君にいはねばならぬ事があつて 吉五郎 何の御用か存ぜねども、只今来客が厶れば お 雪 イエ、お客といへば何時もお出の古手屋さん、大事厶んせぬわい    なア○モシ吉之助様、あんまりじや/\わいなア  〔ト 喜助の傍迄すり寄る、是にて喜助、持つたる盃の酒を溢ぼし 喜 助 是は怪しからぬ、酒を溢して仕舞た○申、先生、此お方はどちら    のお娘御で厶り升 吉五郎 其お方は、此三四軒先の糸店の御息女で厶るが、それは/\内気    なお生れ、客来の所では口も決してお利被成れぬ御気質○夫ではモ    ウお帰りで厶るか お 雪 イエ/\幾ら帰れとおつしやつても、滅多にいぬ事では厶り升せ    ぬ、最前美くしい女子の手をさすつたり、胸を撫でたり、色々な事    を仕たのをば、私しや知つており升わいなア 喜 助 モシ先生、味い事を被成升なア 吉五郎 喜助殿、誠に面目次第も厶らぬ 喜 助 何の貴君、コリヤ若い内は誰しもあり内で厶り升○モシお雪様と    やら、何も御遠慮被成には及び升せぬ、何なとおつしやり升せ○モ    シ先生、全体貴君が悪う厶り升、女子を引入れ、撫たりさすつたり    仕ては此お娘御が腹を立るも尤もで厶り升 吉五郎 夫は先刻祈祷に参つた娘が厶るが、半身なへる病気故、夫で手前    が腕を捕らへて祈祷を致して遣はし升た、アハヽヽヽ 喜 助 コリヤ、飛だ大間違ひじや お 雪 ヤレ/\嬉しや、私も落着たわいなア○然し吉之助様、必らず変    つて下さんすなへ 吉五郎 何の変つてよいものぞ、身が心は是見やれ、此扇面に書いたる玉    椿の八千代迄 お 雪 私の心も其通り、松の操の末かけて、変らぬ色の常盤木に 喜 助 巣をくふ鶴の雛鳥も、頓て目出度う御誕生 吉五郎 時に扇の夫迄は お 雪 互ひに世間へ平骨の 喜 助 知らさぬ様に被成るのが 吉五郎 夫ぞ恋路の肝心要

大塩噂聞書」
(摘要)










誂(あつ)らへ






厶(ござ)ら


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