〔ト 下手より男、弓張提灯を持ち出て来り
男 ハイ、御免被成升せ○ヲヽ御寮人様、最前からお袋様がお案じ被
成てゞ厶り升、早うお帰り被成升せ○先生、毎度お喧しう厶り升
吉五郎 ヲヽ是は糸店のお若衆、マアお這入り被成升せ
男 ヘイ有難う厶り升、サア参り升せう
お 雪 作用なれば吉之助様
吉五郎 お雪殿
男 サアお出被成升せ
お 雪 エヽ、世話しない、今行くわいのう
〔ト 下手へ這入る
両 人 ハヽヽヽ
吉五郎 喜助殿、飛だものが参つて、嘸御迷惑で厶つたらう、モウ一献過
して下され
喜 助 イエ/\大に酩酊致し升た○
〔ト 向ふにて按摩笛を吹く
喜 助 モシ先生、按摩が参つた様で厶り升
吉五郎 夫は幸ひ、憚りながら呼んで下され
喜 助 畏り升た○
〔ト 門口へ出て
喜 助 ヲヽイ、按摩さん/\
〔ト 向ふより格之助出て
格之助 ハイ、お療治で厶り升るかな
喜 助 知れた事じやわいのう○按州はお目くじやの
格之助 ハイ目が不自由で困り升る
吉五郎 サアやつて下され
格之助 ハイ/\○コリヤきつう凝ており升るなア
喜 助 時に先生、何時ぞはお尋申升せうと存じており升たが、アノ病人
衆に頂かしておやり被成升るお守り様は、ありや神様で厶り升るかな
吉五郎 ありや、おれが先祖から伝わつてある、アノそれヲヽ摩利支天の
尊像じや
喜 助 左様で厶り升るかな
|