Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.11.5

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『演劇脚本大汐噂聞書』
その29

重扇助

中西貞行 1894

◇禁転載◇

五幕目 天満平山屋敷の場 (2)

管理人註
  

 〔ト 助左衛門、上手の障子を明て聞居てそつと締る 淵次郎 左様厶れば平山氏 助次郎 淵次郎殿 淵次郎 御親父へ宜しく 浄るり 礼儀正しくしづ/\と、屋敷をさして立帰る、跡に助次郎、思案    顔、手を拱て兎や角やと、忠と義心の二筋に、逆踏み迷ふ胸の内、    思案の扇がらりと捨て 助次郎 コリヤ律はおらぬか、茶を一つ持参しやれ お 律 畏り升た○   浄るり ハツと答へて次の間より、持て出たる煎じ茶の、花香床しき其風    情 お 律 サア、お上り被成升せ  〔ト 蓋附の湯呑を茶台に乗せて持出て差出す 助次郎 ヲヽ太義/\、某が居間へ参つて料紙、硯、取て来てたもれ お 律 畏り升た○  〔ト 奥へ這入る、助次郎、扇にて膝に居る蠅を叩き、茶碗の中へ入れ   る、お律出て来り お 律 持参仕つて厶り升る 助次郎 ヲヽ太義/\  〔ト 茶碗の蓋を取つて 助次郎 此茶は只今立たのではなうて、二番煎じと申す様な事か お 律 イエ/\、只今きびしよもめ、お鉄瓶のお湯にて煮立升たので    厶り升る 助次郎 夫に致しては此茶碗の中には蠅が一匹這入つておるぞよ お 律 エヽ○本にマア心附かぬ御免被成て被下升せ 助次郎 汲替へて持て来やれ お 律 ハイ/\ 浄るり 行んとするを助左衛門、首筋とつて丁々々  〔ト 奥より助左衛門、ツカ/\と出て、お律の首筋を捕て引附け、烟   管にて叩く 助次郎 親人、コリヤ律を何と被成升るな 助左衛門 こな麁相者め、此蠅といふ虫、食事の中ー入る時は、大毒とな    る、助次郎は言号の夫でないか、夫を大切に致すが女の道、其夫に    毒を与へんとは、言語同断、左様な者は忰が嫁には身が致さぬ、サ    ア早く里へ帰れ お 律 アヽ申、お爺様、何の心も附かず差上升たは、重々私が誤り、此    後は急度心得升せう程に、お赦し被成て被下升せ、お慈悲で厶り升    るわいなア 浄るり 彼方を拝し、此方を拝み、詫涙こそ道理なり、助次郎、不便とも    いはぬ心はいふ百倍、胸に満ち来る涙を隠し 助次郎 コリヤ律、親人の日頃の御気質、能く存じておるでないか、何事    も某に任かせ、一先里へ立帰れ○サア又折を見て悪うは致さぬ○ハ    テ行きやれと申に 浄るり 言含むるも妹背鳥、恩愛の程斯やらん、お律はやう/\分て お 律 お叱りも此身の錆、是非なくお暇申升る、只何事もよい様に 浄るり お願い申上升と頼むも涙、頼まるゝ夫も顔に出さねど心の内の暇    乞、こなたも名残り鴛鴦の、跡に心は残れども、是非なく/\も立    出しが、何か心の一思案、立戻りたる柴垣に、身を潜めてぞ忍び居    る、助左衛門はすり寄つて 助左衛門 忰、嫁を里へ帰せしは、其方が望みの通りであらうがな 助次郎 何、某が望みとは

大塩噂聞書」
(摘要)













































きびしよ
きゅうす
急須

厶(ござ)り





















言号
(いいなずけ)





















妹背鳥
(いもせどり)
ほととぎす





鴛鴦
(えんおう)
おしどり


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