平八郎 ハヽヽヽ、世俗の噂を誠と思ひ、謂れざる諫言、今治世に至つて、
おのが権威をし被下升せう以て私慾を貪り、下万民の愁を搆はず、
政事行届かざる故の此愁ひ、見るに忍びず施行致すを、侫人め等が
嫉み言、大塩が胃の腑には、逆意のあるべき謂れはない
矩之丞 スリヤ、どうあつても本心は
平八郎 深山木の其梢とは見へさりし、桜は花に顕はれにけり
〔ト 奥に這入る
矩之丞 底意を明かさぬ師匠の魂、イザ此上は、ソレ
〔ト 奥へ行かけるを三平止めて
三 平 アイヤ、暫くお待被下升せう
矩之丞 身共を止めし其方は○ヤヽ其方は日外黒闇山にて出会し馬士なら
ずや
三 平 如何にも其節馬士となつたは、主人よりの内意を受け、盗賊詮議
の隠し目附け、誠は家来の三平と申者
矩之丞 其又そちが何故身共を
三 平 お止め申は御主人をお討被成るゝお心で厶り升せうがな
矩之丞 如何にも下民を救うとは偽り、誠は亡主の恨みをば、晴さん兼て
の大望故
三 平 イヤ、手前主人に於升ては、大望抔とは思ひも寄らず、救民施行
の心より外に念なき証拠には、家にも身にも替へ難き洗心洞の書物
迄、売払ひたる此度の御施行
矩之丞 三平とやら、是を見やれ
〔ト 前幕の捨文を出す、三平披き見て
三 平 ヤヽ、コリヤ是、兼てしつらひし此捨文が、どうして貴君の
矩之丞 夫程慥な証拠があるに、まだ平八をかばひおるか
三 平 サア夫は
矩之丞 但し外に言訳あるか
両 人 サア/\/\
矩之丞 イデ踏込んで
三 平 先々お待被下升せ、斯く証拠の出る上は、所詮遁れぬ主人の命、
如何にも貴君に討たせ升せう
矩之丞 ヲヽ流石は三平、よき観念、シテ平八が居所は
三 平 此広庭より飛石伝ひの乾の小座敷、大方今頃御寝なつてお出被成
で厶り升せう
矩之丞 夫ぞ幸ひ、是より直ぐに
三 平 片時も早う
矩之丞 ヲヽ○合点だ
〔ト 両人宜しく此道具返し
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