浄るり 感じ入ると父の詞に格之助、腹切らんと刀の柄に手をかくれば、
矩之丞は押止め
矩之丞 ヤア、物に狂ふて切腹か
格之助 物に狂ふとはお情ない、斯くいふ貴殿の覚悟と知らず切入らしな
ば、一大事と血気にはやつて切下げし、貴殿への申訳け
矩之丞 ヤア、愚か/\、味方一人退けば、敵に千騎の強みを附る、斯く
いふ某が此最期は、師を重んじて一味せば、我胎内より○
浄るり 喰らひ込んだる恩禄の、君主へ対して不忠不義
矩之丞 刀を刃引に致せしは、師に敵対はぬ某が潔白とはいふものゝ、今
日迄、夢にも存ぜぬ師の系図、御旗に附けし紋所、扨は貴君は今川
の
平八郎 其血統たる我素性○
浄るり 演舌せんと威儀を正し
平八郎 抑我先祖は今川治部太夫義元なるが、斯く世を忍ふも、家の重器
勝時丸の名剣を、我手に入れん其為に、大塩と変名して此摂津に留
まりしが、手立を以て我手に入れし上からは、救民といひ立、和泉
摂河大和路の百姓共を一味に引入れ、明日の巡見に堀、跡部を討取
つて、甲山にて鎗倉の討手の奴原、一戦に切散らし、義元公の修羅
の忘執を晴らせ奉らんと思立つたる我企、片腕とも頼みある、あつ
たらしき若者を、無残/\散らすが残念やなア
浄るり 始めて明かす逆意の企、実に名にし負ふ本朝に、類ひ希なる大将
なり、三平は進み出
三 平 驚き入たる主君の企、下郎ながらも譜代の拙者、何卒お加へ被下
升せう
平八郎 ホヽウ、只今よりは杉山三平と名乗り、先手の大将申附けるぞ
三 平 エヽ有難う存じ升る
浄るり 天にも登る勇みの顔色、矩之丞は声張上げ
矩之丞 如何に杉山三平殿、手ネ始めに矩之丞がイデ首を討て、実に供
へられよ
格之助 仁義を立る矩之丞殿の寸志の詞、辞退は却て礼儀にあらず
三 平 然らば御首申受けん
矩之丞 イデ此上は、軍神の血祭りせん
浄るり 差添腹へ貫いて、きりゝ/\と引廻はす、大塩は声をかけ
平八郎 如何に幸綱、鎌倉勢を駈け悩ます所存は如何に
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