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八 八 姉御、内にか
お 菊 ヲヽ八八さん、何と思ふて厶んしたへ
八 八 おれが来たのは○お菊坊、貴様に用があつて来た、姉御は留守か
お 菊 アイ姉さんは
八 八 留守なら幸ひ、爰へござんせ○ハテマアお出いなア○
〔ト 此内向ふより吉五郎出て来り、門口より窺ふ
八 八 コレ、此八八が首たけ惚れて居ればこそ、度々口説に返事もせぬ
は、あんまり難面胴慾な○
浄るり しがみ附きたる色事師、叶はぬ恋の力業、詮方尽きて見へたる折
ネ、表に立聞く以前の男、ずつと這入て八八が、襟髪掴んでどうと
投附け、娘を囲ふて突立ば、腰をさすつて起上り
八 八 アイタヽヽ○ヤイ終に見なれぬ奴じやが、何でおれを投げたのだ
吉五郎 投げた位は愚な事、首を取ても大事ねへのだ
八 八 こつが/\八八様の首を取つても何で大事ないのだ
吉五郎 ハテ主しある女を手込めにすりやア、いはずと知れた間男故
お 菊 アヽモシ何の私が
吉五郎 アヽコレ合点の悪るい、ソレわしやアこなたの言号ナ○九條村の
十作が妹は、おれが言号、其女をば手込めにする故、間男といつた
が誤りか
八 八 サア夫は
吉五郎 余も言分はあるめへが○ナア女房
浄るり 目ませで知らせば呑込んで、
お 菊 成程、私が言号の殿御で厶んした、余り久しく逢はぬので、ツイ
忘れてのけ升た、堪忍して下さんせ、モシ八八さん、此後否らしい
事しやんしたら、聞く事じやないぞへ
吉五郎 さうとも/\、是にも懲りず口説たら、定法通りわれが骸、二つ
に仕にやアならねへのだ
八 八 エゝ減相な、こんなに長居をしたらどんな目に合ふも知れぬ、ド
レそろ/\出掛けやう○
〔ト 門口へ出て
八 八 然し形りは変つて居れど、今の野郎は慥かに八坂の
吉五郎 ヤ
八 八 イヤ、弥三が所でまん直しに一盃らうか
〔ト 這入る
お 菊 是は/\、何れのお方か存じ升ねど、いかひお世話で厶り升た
吉五郎 さうして十作殿は内に居るか
お 菊 ハイ兄さんは留守で、姉さんと二人で厶んすわいなア
吉五郎 留守とは幸ひ、一所に来な
お 菊 私に来いとは、そりや何所へ
吉五郎 ハテおれが行く所へ連れて往て、女房に仕にやアならねへのだ
お 菊 エゝ
吉五郎 たつた今、其方が口から言号だといつたじやアねへか
お 菊 今のは八八を欺したのじやわいなア
吉五郎 イヤ欺さうが欺すまいが、こつちは夫を定木にして女房に仕にや
アならねへのだ
鹿 蔵 イヤ一寸待て貰はうかへ
〔ト 奥より出る
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「大塩噂聞書」
(摘要)
厶(ござ)る
胴慾
思いやりがなく、
むごいこと
言号
(いいなずけ)
許嫁
定木
(じょうぎ)
ものさし
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