Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.10.12/10.25最新

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「大塩の乱関係論文集」目次


『演劇脚本大汐噂聞書』
その5

重扇助

中西貞行 1894

◇禁転載◇

二幕目 九條村十作内の場  和州黒闇峠の場 (3)

管理人註
  

吉五郎 娘にうんと得心させ、おれが連れて帰るのを、何で貴様は止める    のだ 鹿 蔵 ヲゝ止めに出たのは外でもねへ、実はおれも惚れて居る故、姉御   と今も相談最中、娘はこつちへ貰ふから、さう思ふて貰うわい 吉五郎 そりや、事とすべによつたら、やるめへものでもねへけれど、一    旦仕事を仕た娘を権ネ押で取られたと、仲間の者にいはれちやア、    此後世間が渡れねへ、此事斗りはお断りだ 鹿 蔵 仮令何といはうとも、こつちも一旦言出したら、跡へは引かぬ、    春日の鹿蔵、爰は一番腕づくでも、おれが女房に仕にやアならねへ 吉五郎 見事われが 鹿 蔵 おんでもない事 両 人 何を  〔ト お慶出て お 慶 マア待て被下升せ、お二人さんの争ひの元の起りは妹から、夫を    姉の私がどうも見てはおられ升せぬ、一人は心易い鹿蔵さん、今お    一人は終に見ぬお方では厶んすけれど、数ならぬ妹をば女房に仕度    いとおつしやるは、姉が身に取り何ぼうかお嬉しう厶んすわいなア 吉五郎 夫程迄に思ふなら、娘は是非とも私が貰はう 鹿 蔵 姉御、妹のお菊を取られては、此鹿蔵の面が立ぬ お 慶 ハテ、お前が顔の捨る様にはせぬ程に 鹿 蔵 夫じやといふて、一人の娘に 吉五郎 二人の聟とは 両 人 心元ない お 慶 何の私も女子でこそあれ、後方迄に急度捌いて見せ升せう 吉五郎 さう姉御が受合ふ事なら 鹿 蔵 出入りはこたなに 両 人 預けてやらう お 慶 そんなら夫迄奥の座敷で 両 人 ドレ、返事をば待うかい  〔ト 思入あつて鹿蔵は納戸、吉五郎は上手家体へ這入る お 菊 申、姉さん○  〔ト お慶、吉五郎の跡を見て思案の思入 お 菊 コレ姉さん  〔ト 背中を叩く お 慶 エゝ恟りするわいのう お 菊 お前の恟りより私の心配、今の返事は何とせうと思やしやんすへ お 慶 返事の仕様は○錦木の立なからにて朽にけり お 菊 今日の細布胸合はすして お 慶 妹を囮に入込んだ、あの鹿蔵の心に一物、今一人の浪人者、面ざ    しといひ、年格好、慥にあれは お 菊 日頃尋ぬる私が兄さん お 慶 アコレ○  〔ト 押へるが木の頭 お 慶 静にしや 浄るり 身拵らへして  〔ト 両人宜しく是にて返し

大塩噂聞書」
(摘要)































厶(ござ)る














































恟(びっく)り



錦木
(にしきぎ)
ニシキギ科の
落葉低木

細布
(ほそぬの)
幅の狭い布






木の頭
(きのかしら)
幕切れの台詞や
動作のきまりに
合わせて打つ拍
子木の最初の音


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