浄るり 折から門前騒がしく、乱入たる討手の同勢、先に立つたる討手の小頭
小 頭 ヤア/\大塩始めとして、一味の奴原、ソレ者共
皆 々 心得升た
浄るり 心得升たと討手の大勢、奥を目掛けて行んとす、手負ひながらも急度身搆へ
矩之丞 ヤア小ざかしき、雑人原ならば、手ネに通つて見よ
浄るり 大手をひろげて身搆へたり
小 頭 ソレ、こやつから討て取れ
矩之丞 何を小癪な
浄るり 詞の下より組子共、遁さぬやらぬと打掛るを、手負ひながらも一生懸命、前後左右
へ投げ倒し、ほつと一息つく間もなく、撃て掛るをかいつまみ、宙に跳らせ、かばと
投げ、続いて来るを発矢と当身、うんとのつけに反る間も待たず、続いて左右より又
かゝるを弓手に掴んで、筋斗うたせ、馬手にかついて弓手へ投げ、心を尽す働きに、
さしもの大勢、あしらひかぬ、跡をも見ずして逃げ散たり
矩之丞 心は矢竹に思へども、何をいふにも此深手、先生には最早出陣あられしか、どうぞ
様子が知りたいものじやなア
〔ト 捕手一人窺寄つて
捕 手 うぬ
浄るり すきを窺ひ組附く捕子、心得たりと引つぱづし、挑み争ふ其折ネ、彼所へ響く相図
の狼煙、矩之丞、急度目を附け
矩之丞 あれこそ正しく相図の狼煙
捕 手 何を
矩之丞 せめて此世の思ひ出に、大塩氏が出陣の、其有様を一目なりとも
捕 手 うぬ
浄るり 又もかゝるを払ひ退け、目当は庭の古木の梅ケ枝、なんなく梢へはせ登り、遥か向
ふを急度見やり
〔ト 道具を下手へ引くと、梅の木真中になり、矩之丞、梅の梢へ登つて
矩之丞 ハヽア、勇ましゝ/\、真つ先駈て打立しが、御子息大塩格之助殿、遥かさがつて
平八殿、斯く出陣ある上は、思ひ置く事更になし、イデ此上は最期を急がん、ソレ
浄るり といふよりひらりと飛下り、有合ふ刀、取より早く、弓手の脇へかばと突立、腹一
文字に引廻し、我と我手に止めの刀、喉を後ろへ貫きし、最後の程こそ
〔ト 捕手かゝるをトゞ捕手の上へ俯向に落入る、是にて返し
造物 平舞台 向ふ一面に今橋鴻池の書割 大筒にて家砕けたる書割
真中に平八郎、済之助、格之助、良右衛門、義左衛門、梶五郎、司馬之助、源左衛門、
其外大勢、大砲を車に乗せ、旗指物を持て並び居る、
上手に弓太郎、采配を持ち、三平、大砲を引て居る、好みの鳴物にて道具留る
平八郎 日頃の鬱憤晴らすは此時
済之助・格之助 大望成就の
皆 々 則手始め
平八郎 何れも勝時
皆 々 エイ/\ヲヽ
平八郎 ハテ心地よき、フヽ○
〔ト 笑ふが木の頭
平八郎 詠めじやなア
〔ト 誂らへの鳴物にて、鶏笛鳥笛を入れて宜しく幕
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