義左衛門 仮令平八殿の詞無足になすとも、各方のお供して遁るだけ遁れ
て見ん
志 摩 我思案も其通り、先達て書面を以て申通じ置たれば、何卒貴殿、
彼等を伴ひ、伊丹の駅粕屋七郎左衛門方迄落延下され
義左衛門 心得升た、然らばお勇殿、二人の衆
お 勇 今別れては、又いつか
志 摩 長い未来で○逢はうぞよ
義左衛門 サア厶れ
〔ト 四人、下手へ這入る
志 摩 イデ此上は我身の用意、ヲヽ
〔ト 奥へ這入る、向ふより佐左衛門、又兵衛、捕手大勢、庄屋杢兵衛、
先立て出て居直り
佐左衛門 ソレ案内致せ
杢兵衛 ヘイ畏り升た○志摩殿、御吟味の筋あつて、お役人様がお出被成
た、志摩殿/\
又兵衛 ヤア、家内ひつそと静まりおるは、風を喰つて逃失せしか
佐左衛門 彼を逃さば、我々共が役目の落度
両 人 イデ踏込んで
〔ト 奥にて
志 摩 アイヤ、何れも宮脇志摩、夫へ参つて御面談の仕らん
〔ト 出て来る
佐左衛門 此度大塩平八郎義、大阪市中を動乱させ、天下の役人へ敵対致
せし大罪人、然る所、先刻隠目附けの注進には、汝が宅に平八が妻
子の者共かくまいあるよし
又兵衛 速かに渡せばよし異議に及ばゞ用捨はならず
佐左衛門 遁れぬ所と諦めて
又兵衛 きり/\彼等を
佐左衛門・又兵衛 渡して仕舞へ
志 摩 是は/\、何事のお尋ねかと存じ升れば、此度の義に附て、伯父
甥の間故、平八郎が妻子の者をかくまいあらんとの御詮議、御尤に
は厶れども、斯く神職を勤むる某、神へ恐れ、左様な罪人、家内に
かくまふ筈が厶らぬ、勿体なくも吹田明神を誓に立て、申訳仕る
又兵衛 汝、如何程陳ずる共、上みには吟味致してあるわい
佐左衛門 夫に何ぞや、我々をたばからんとは、にっくき奴
又兵衛 此上は其方に縄ぶつて家捜し仕ても、彼等をば
佐左衛門 搦捕らねばならぬわへ
志 摩 斯くなる上は是非に及ばず、平八が妻子の者をかくまひ申た申訳
〔ト 刀を腹へ突立る
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