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造物 平舞台 真中に築山の様にして、此上に少さきお宮、
此傍に大なる梅の木、此上みに二間の二重襖、通り、小模様の唐紙
前側障子 下の方九尺の二重小座敷の飾附け
舞台真中に切戸 紅白梅の釣枝 都て奥庭の模様
尤両家体共藁家根 時の鐘三重にて道具納る
浄るり 窺ひ居る人なき時を幸ひと、うろ/\来たる庄屋の五郎作
五郎作 爰の内がきぶさいな故、いんだ振りして聞て居たが、何でもあい
つが吉五郎に相違ない、夫も証拠がなければ、いはれもせず、ハテ
どうしたものであらうなア
浄るり 小首傾け思案顔、こなたの小蔭にきよろ/\と出て来る八八、同
腹中
八 八 ヲイ/\庄屋殿○ヲイ庄屋殿
五郎作 ヲヽ八八か、静かにせい
八 八 爰が怪しいと、此間から気を附けて居るが、あの最前の浪人めは、
慥に幻
五郎作 コレ大きな声をする奴じや、コリヤ
〔ト く
八 八 スリヤ縁の下に忍んで居て
五郎作 篤と実否を糺した上
八 八 代官所へ注進せば
五郎作 褒美の金は
八 八 二つ山じや
五郎作 必らずぬかるな
八 八 合点じや
浄るり 示し合して両人は、又も小蔭へ忍入る、春の日の永き日影も黄昏
に、梅が香慕ふ鶯の啼声も、憐れ法華経の、共に吊らう吉五郎、障
子開いて位牌に向ひ
吉五郎 誠に今日は月こそ替はれ、母者の御命日○栄喜院長久大姉、南無
阿弥陀仏/\
浄るり 世に亡き母へ、香炉の烟りも細き幻が手向けぞ、いとゞ殊勝なる、
こなたの内にも鹿蔵が、返事を松の板庇、洩れる日影に障子押明け
鹿 蔵 此日差しでは、七つ下り、返事のないは、若しや向ふへ娘の札が
落はせぬか、一寸様子を窺つてやらうわい
浄るり といひつゝ下りたる庭の面、こなたの内をさしのぞき
鹿 蔵 何だ栄喜院長久大姉
〔ト 吉五郎、恟りして位牌を隠し
吉五郎 ヲヽこなたはさつきの馬士どん、さうして、爰へは何しに来たの
だ
鹿 蔵 あんまり返事が遅い故、こつちの様子を見に来たのよ
吉五郎 夫は丁度幸ひだ、ちつとこなたに頼まにやならぬ事がある
鹿 蔵 わしもこなたに頼みがあるが、何と聞ては下んせぬか
吉五郎 さうしておれへ頼みとは、
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「大塩噂聞書」
(摘要)
同腹
同じ考え
(ささや)く
恟(びっく)り
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