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〔ト 内山、深編笠にて聞て居て
彦次郎 ヤレ待う高橋氏、麁忽の挙動、無用/\
浄るり と声をかけ、内山がしづ/\通る其骨ネ、威あつて猛き武士の顔、
見て恟り
佐左衛門 ヤア、貴殿は内山彦次郎殿
彦次郎 五郎兵衛義は、先刻会所に於て吟味を致し、大塩をかくまひない
事、明白に相知れたり
佐左衛門 イヤ、此家の内に大塩親子かくまひある事、慥なる者、訴人致
せり○ソレ者共、召連れたる訴人の者、引立参れ
捕 手 ハアヽ
浄るり ハツと答へて、あらしこ共、引立出る親子の者、五郎兵衛見るよ
り
五郎兵衛 ヤヽそちや
お 松 旦那様、お赦し被成て被下升せ
五郎兵衛 訴人といふはそちであつたか
孫 助 イヤ、訴人したは此平野村の孫助じや、去年の三月から娘をこな
たの内へ奉公におこしたが、おれが病気と啌ついて、娘を呼寄せ委
細を聞けば、こいつは何にも知るまいなれど、人数に合はして飯の
焚様多い所から嗅出して、おれが訴人した、五郎兵衛殿、モウ叶は
ぬ、きり/\白状さつしやり升せ
佐左衛門 何と五郎兵衛、よい訴人であらうがな、サア、言訳あらば申て
見ぬか
五郎兵衛 サア夫は
佐左衛門 かくまひあるに相違はないか
二 人 サア/\/\
佐左衛門 五郎兵衛殿、返事はドヽどうじや○ソレ家捜し致せ
捕 手 心得升た
彦次郎 ヤア、家捜し呼はり法外千万、脚踏込まば息の根止めん
佐左衛門 ヤア、謀叛人の大塩の詮議致すが、何が法外
彦次郎 謀逆人の大塩を、詮議の役は汝斗りか
佐左衛門 ヤ
彦次郎 跡部公より仰せを承け、大塩詮議の内山彦次郎、サア某を置き踏
込まるゝなら、踏込んでみよ、魁仕られし其代り、汝が首所望致さ
ん
佐左衛門 マヽお待ち下され、只今のは出そこない、真平御用捨被下升せ
う
彦次郎 出そこないとあれば、咎めは致さぬ其方は只今より西口辺を詮議
致しやれ
佐左衛門 何の事だへ、折角取得た大塩の詮議、忌々しい
孫 助 さうして私の御褒美は
彦次郎 ヲヽ、只今くれう、ソレ其奴に縄うて
捕 手 ハアヽ
孫 助 アヽ申々、何で私が縛られ升るので厶り升る
彦次郎 ヤア、うぬが私慾に眼くらみ、不分明なる義を訴ふ不届者、此五
郎兵衛が詮議、相済む迄は獄屋へ入置き、張番申附けい
捕 手 畏つて厶り升る○腕廻はせ
〔ト 孫助に縄かける
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「大塩噂聞書」
(摘要)
恟(びつく)り
あらしこ
(荒し子・嵐子)
武家の使用人で
雑役に従事した
者
啌(うそ)
厶(ござ)り
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