造物 二重 襖通り 床の間 違棚 張交の唐紙 上下落間 焼板塀
此前植木 例の所 切戸 都て奥座敷の飾附け
二重に平八郎、鼠の衣、鼠の頭巾にて唐机に位牌を置き、香を焚て居
る、
下手に格之助、同じ形りにて三宝二つの上に九寸五分を乗せて居る、
独吟にて道具留る
平八郎 アヽ、思ひ廻はせば口惜しい我大望、事ならす、身を忍ぶべき手
立を失ひ、無念の月日を送る身の上
格之助 なまなか身を遁れんとて、却て死耻を曝さんより、屑く最期を遂
げん、親人様
平八郎 忰○思へば詮なき世の
二 人 有様じやなア
〔ト 両人、頭巾を取り、格之助、三宝を平八郎の前へ持て行き、一つ
を我前に置き、色々あつて
平八郎 忰、必ず共におくるゝな
格之助 心得升た
〔ト 両人、腹を切らうとする、彦次郎、奥の襖を明けて見て居て
彦次郎 御両所、待つた
平八郎 ヤ貴殿は内山
格之助 彦次郎殿
平八郎 万民の憂ひを重んじ、施行の為に欠所金、御蔵米を拝借の義、聞
入れざる堀、跡部、富家のやからに言入れても、承引なき故、是非
に及ばす、斯く計らひしも、天運尽き、屑く切腹すれは、首は貴殿
へ参らせん、忰、用意
彦次郎 ヤア、血迷ふたか、御両所、貴殿が平八郎、格之助なれば、望ん
で首を取るべきが、三界無庵の出家の首、手ネに致す内山ならず、
迚も運尽き死る身なれば、所持致す勝時丸を、某に手渡し致して、
助命致す所存はなきか、生は難し死は易し、死に急ぎする場所でな
いがや
平八郎 一旦手に入る勝時丸、仁義に否まん様はなし○イザ受取られよ
(ト 腰に差したる刀を渡す
彦次郎 ホヽウ、悪に強きは善にもと、翻へりたる御親子が誠心、感ずる
に余りあり、某が役たる勝時丸の詮議相済む上からは、無縁の僧に
入らざる此品、此内山が暫く預る○
〔ト 両人の九寸五分を取つて
彦次郎 刄物代りの此一品
〔ト 書附を二本投てやる
平八郎 コリヤ是、天就寺より出し往来手形、雷門とは則某
格之助 まつた観永とは拙者が変へ名
彦次郎 御両所共に今日より此手形を所持召れば、日本国中、往来堅固
平八郎 残る方なき御仁誠
格之助 昔に変はる我々は
平八郎 三衣の為に一命を
彦次郎 助かるも是仏の利生
平八郎 世は様々の
三 人 成行じやなア
〔ト 捕手一人出て
捕 手 様子は聞た
〔ト 行かけるを、内山抜打に切る、三人急度なると木の頭、独吟にな
り、返し
|