山城守の孤
疑
天神橋切落
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大塩一党中重立ちたる者共は東組与力同心である、跡部山城守か
ら見れば、手許に平八郎の味方が潜居るやも知れずとの懸念があ
り、大井伝次兵衛の倅正一郎は暴動に一味し、又坂本鉉之助の平
素平八郎と懇意なることは、人の知つたる事実なれば、玉造与力
とても油断はならずと思つたらしい、鉉之助が引率して来た同心
を庭内に呼入れた時、山城守家来が御同勢中藤重槌太郎といふ方
は居られぬかと尋ねたも、槌太郎が去年より毎月三度づゝ大塩邸
へ砲術の教授に往つたからの疑である、鉉之助等が折角防禦の支
度中に天神橋を切落したは怪訝に堪へぬ、敵を引受けやうとして
守備の手配をしながら、敵の来る路を絶つて仕舞つたのは会得し
かねる、併し山城守に狐疑の心があつたとすれば、不思議でも奇
怪でもない、山城守に出馬を勧め、天神橋南詰の町家に兵を伏せ、
賊徒の八九分通橋を渡つて来る所を見澄し、俄に打つて出でたら
ば、橋は長し見通はよし、橋上故左右へ逃散ることは出来ず、多
数の敵を斃し、従つて船場上町を焼かず、市民の難儀を軽くする
ことが出来たらうに、山城守が天神橋切落の為杣人足を遣したり
といふを聞き、早く其真意を覚つて諫止の方法に出でざりしは残
念であると、咬菜秘記に出て居る。
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大塩一党中重立つた者共は東組与力同心である。跡部山城守か
ら見れば、現在尚自分の手許に平八郎の味方が潜み居るやも知れ
ずとの懸念がある。玉造口与力大井伝次兵衛の倅正一郎は暴動に
一味し、同坂本鉉之助が平素平八郎と別懇であることは、人の能
く知る所で、山城守は玉造与力とても油断はならずと思つたらし
い。鉉之助が引率して来た同心を庭内に呼入れた時、山城守家来
が御同勢中藤重槌太郎殿は居られぬかと尋ねたも、槌太郎が去年
から毎月三度づゝ大塩邸へ砲術の教授に往つたからの疑である。
鉉之助等が折角防禦の支度中に天神橋を切落し、敵の来る路を絶
つて仕舞つたのは甚だ了解に苦しむが、併し山城守に狐疑の心が
あつたとすれば、不思議でも何んでもない。坂本鉉之助は自分が
早く山城守の心中を見抜き得たら、山城守を諌めて天神橋切断を
中止せしめしむるのみか、反対に出馬を勧め、天神橋南詰の町家
に兵を伏せ、賊徒の八九分通橋を渡つて来る所を見澄まし、俄に
打つて出でたらば、橋は長し見通しはよし、橋上故左右へ逃散る
ことは出来ず、多数の敵を斃し、従つて船場上町を焼かず、市民
の難儀を軽くすることが出来たらうにと悔んでゐる。
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