宗旨手形
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寛永年間島原に耶蘇教徒の乱があつた後、耶蘇教の取締は極め
て厳重となり、其反動として幕府は仏教を保護する政策を執り、
大阪では各宗寺院をして其檀家に対し、宗旨手形一名宗旨請状
を差出さしむることとなつた、此手形が無ければ移転奉公等一
切戸籍上の変動を許さぬ、又或町に住居してからも、年々之を
貰つて其町会所に届出で、町会所はそれを集めて家持借家宗旨
人別帳なる者を作る、言はゞ今の戸籍台帳で、之には戸主家族
の氏名年齢を記すのみならず、必ず戸主の氏名の上に何宗何町
何寺檀徒と記入する、されば僧侶は一方には葬礼・法会・説教
等を行ひ、又一方には戸籍吏の仕事を勤め、檀家にとの関係を
深くしたもので、宗旨手形も其寺一判で済むのを独判といひ寺
格宜しく、然らざるは五人組といつて、俗人の如く同派の寺院
五ケ寺を一組とし―尤も中には四ケ寺六ケ寺七ケ寺を一組とし
た者もあるが―一組の印を要したものである、一体大阪は冠婚
葬祭総て吉凶の礼に厚い所で、今日でも僧侶は必ず駕籠に乗り、
長刀・椅子・合羽籠の類を従へて葬儀に加り行く、吉凶の礼に
手重い所以は、金銀はあれども町人の都とて儀式バリたる事が
少い故、人生避くべからざる冠婚喪祭の時に当り、費用を惜し
まず立派にするのであらうが、戸籍取扱による僧侶との密接な
関係も、厚葬の一因を為したのであらう、
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寛永年間島原に耶蘇教徒の乱があつた後、幕府は一方極めて
厳重に耶蘇教を取締ると共に、他方には仏教を保護する政策を
執り、各宗寺院をしてその檀家に対し、宗旨手形一名宗旨請状
を差出さしめ、宗旨手形が無ければ移転奉公等一切戸籍上の変
動を許さぬこととした。大阪では毎町今の戸籍台帳に当るもの
を家持借家宗旨人別帳と称し、それには戸主家族の氏名年齢を
記すのみならず、必ず戸主の氏名の上に何宗何町何寺檀徒と記
入するを要した。されば僧侶は僧侶本来の仕事たる葬礼・法会・
説教等を行ふ外に戸籍吏の仕事を勤め、従つて檀家に対し権力
があつた。一体大阪は冠婚葬祭総て吉凶の礼に厚い所で、僧侶
は必ず駕籠に乗り、長刀・椅子・合羽籠の類を従へて葬儀に参
列する。古凶の礼に手重い所以は、金銀のあるに任せて衣食住
に少し目立つたことをすれば、町人の身分として不埒至極と咎
められる故、人生避くべからざる冠婚葬祭の時に当り、費用を
惜しまず立派にするのであらうが、戸籍取扱による僧侶との密
接な関係も、厚葬の一因を為したのであらう。
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