Я[大塩の乱 資料館]Я
2005.3.8

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大 塩 平 八 郎 』 その32

幸田成友著(1873〜1954)

東亜堂書房 1910

◇禁転載◇


 第一章 与力
  二 三大功績 下 (3)
 改 訂 版


被害者の陳述

要するに極めて幼稚な詐欺手段であるに拘はらず、被害者の中 でも強慾の名ある家主与兵衛―家質を引当にしてさへ容易に貸 金をせぬ与兵衛が、此一言に動されて惜気もなく大枚の金銀を 投出したのは、当時使に立つた八重さへ吃驚する程であつた。 与兵衛の女房及母は夫が八重に欺かれて居るのだと心付き、与 兵衛に異見をした位であるのに、八重に勤められると両名とも 何となく難有なつて衣類を差出したといひ、二軒の質屋も質置 主の身分に引較べては多額の品物故、向後は質に取つてはなら ぬと手代を戒めながら、使に来る八重を見ると、何となく愛敬 を生じて、知らぬ間に多額の質を取つたといひ、その他の被害 者の返答も大低同様である、さのは最初騙を行つたと自白した が、与兵衛等の申口にては普通の騙とは認め難い、殊にさのゝ 家には稲荷明神が祭つてある故、若しや狐狸を使つたのではな いかと厳しく責めて見ると、今度は申口を変へ、実は先年京都 在住の砌、勢州山田生れのなみといふ女から狐遣の法を授り、 其術を以て金品を掠取つたと白状した、而し家財改の節紙で作 つた人形に釘の打つてあるのが出た、又当人は一命を投出して 仕置を願つて居る、狐遣位で生死を恐れぬ不動心を有して居る のは訝しいと、早速なみの召捕方を手当して見たが、之はさの が虚空に拵へた人物故、召捕得る筈はない。

要するに極めて幼稚な詐欺手段であるに拘はらず、被害者の中 でも強慾の名ある家主与兵衛が、家業繁栄の一言に動かされて 惜気もなく大枚の金銀を投出したのは、当時使に立つた八重さ へ吃驚する程であつた。与兵衛の女房及び母は夫が八重に欺か れて居るのだと心付き、与兵衛に異見をした位であるのに、八 重に勤められると両名とも何となく有難くなつて衣類を差出し たといひ、二軒の質屋も質置主の身分に引較べては多額の品物 故、向後質に取つてはならぬと手代を戒めながら、使に来る八 重を見ると、何となく愛敬を生じて、知らぬ問に多額の質を取 つたといひ、その他の被害者の返答も大低同様である。さのは 最初騙を行つたと自白したが、与兵衛等の申口にては普通の騙 とは認め難い。殊にさのの家には稲荷明神が祭つてある故、若 しや狐狸を使つたのではないかと厳しく責めて見ると、今度は 申口を変へ、実は先年京都在住の砌、勢州山田生れのなみとい ふ女から狐遣の法を授り、その術を以て金品を掠取つたと白状 した。然し被害者の申口から見て、尋常の狐遣とは思はれず、 家財改の節紙で作つた人形に釘の打つてあるのが出るし、当人 は一命を投出して仕置を願つて居る。狐遣位で生死を恐れぬ不 動心を有して居るのは訝しいと、早速なみの召捕方を手当して 見たが、之はさのが虚空に拵へた人物故、召捕り得る筈はない。


「浮世の有様 文政十二年大塩の功業」その2


「大塩平八郎」目次/ その31/その33

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