被害者の陳述
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要するに極めて幼稚な詐欺手段であるに拘はらず、被害者の中
でも強慾の名ある家主与兵衛―家質を引当にしてさへ容易に貸
金をせぬ与兵衛が、此一言に動されて惜気もなく大枚の金銀を
投出したのは、当時使に立つた八重さへ吃驚する程であつた。
与兵衛の女房及母は夫が八重に欺かれて居るのだと心付き、与
兵衛に異見をした位であるのに、八重に勤められると両名とも
何となく難有なつて衣類を差出したといひ、二軒の質屋も質置
主の身分に引較べては多額の品物故、向後は質に取つてはなら
ぬと手代を戒めながら、使に来る八重を見ると、何となく愛敬
を生じて、知らぬ間に多額の質を取つたといひ、その他の被害
者の返答も大低同様である、さのは最初騙を行つたと自白した
が、与兵衛等の申口にては普通の騙とは認め難い、殊にさのゝ
家には稲荷明神が祭つてある故、若しや狐狸を使つたのではな
いかと厳しく責めて見ると、今度は申口を変へ、実は先年京都
在住の砌、勢州山田生れのなみといふ女から狐遣の法を授り、
其術を以て金品を掠取つたと白状した、而し家財改の節紙で作
つた人形に釘の打つてあるのが出た、又当人は一命を投出して
仕置を願つて居る、狐遣位で生死を恐れぬ不動心を有して居る
のは訝しいと、早速なみの召捕方を手当して見たが、之はさの
が虚空に拵へた人物故、召捕得る筈はない。
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要するに極めて幼稚な詐欺手段であるに拘はらず、被害者の中
でも強慾の名ある家主与兵衛が、家業繁栄の一言に動かされて
惜気もなく大枚の金銀を投出したのは、当時使に立つた八重さ
へ吃驚する程であつた。与兵衛の女房及び母は夫が八重に欺か
れて居るのだと心付き、与兵衛に異見をした位であるのに、八
重に勤められると両名とも何となく有難くなつて衣類を差出し
たといひ、二軒の質屋も質置主の身分に引較べては多額の品物
故、向後質に取つてはならぬと手代を戒めながら、使に来る八
重を見ると、何となく愛敬を生じて、知らぬ問に多額の質を取
つたといひ、その他の被害者の返答も大低同様である。さのは
最初騙を行つたと自白したが、与兵衛等の申口にては普通の騙
とは認め難い。殊にさのの家には稲荷明神が祭つてある故、若
しや狐狸を使つたのではないかと厳しく責めて見ると、今度は
申口を変へ、実は先年京都在住の砌、勢州山田生れのなみとい
ふ女から狐遣の法を授り、その術を以て金品を掠取つたと白状
した。然し被害者の申口から見て、尋常の狐遣とは思はれず、
家財改の節紙で作つた人形に釘の打つてあるのが出るし、当人
は一命を投出して仕置を願つて居る。狐遣位で生死を恐れぬ不
動心を有して居るのは訝しいと、早速なみの召捕方を手当して
見たが、之はさのが虚空に拵へた人物故、召捕り得る筈はない。
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