緒 言
自分は大正十三年度以来東京商科大学において「日本経済
史」の講義を担任した。自分の研究のためと学生諸君の聴講
の便とを併せ慮つて、毎年新しい講義案を作つたので、今日
ではそれが相応の分量に達した。これを整理して追々出版し
たい考は以前からあつたが、毎年新講義案の作製に逐はれて、
旧稿の訂正に手を着ける暇を得なかつた。
自分の希望と現状とに同情せられた商学士津田礼次郎氏は、
自分の第一回の講義案「江戸と大阪」との整理及び清書を申
込まれた。同君は在学中この講義を聴講せられた一人である
から、その仕事にとつて最適任者であることはいふまでもな
い。かくて出来上つた清書に対し、自分は昨年の夏季休暇中
から訂正に取掛つた所、あまりに加除増減が多かつたため、
折角の清書も印刷用原稿として使用に堪へざる程になつたの
で、商学士増田四郎氏を煩はし、再びそれを浄書して印刷所
へ廻すこととした。
「江戸と大阪」は、自分が商科大学に於ける最初の講義で
あり、また最後の講義である。大正十三年度に一回講演した
まゝで二度と繰返したことは無い。従つて自分にとつて少か
らざる思出を伴ふこの講義案が、津田増田両学士の尽力によ
つて一冊の本に纏つたと思へば、両氏に対する感謝の念は禁
じ難い。剰へ、津田学土が本書の印刷校正及び索引編纂を担
任せられたのは重々感謝に堪へぬ次第である。
昭和九年八月
幸田成友
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