Я[大塩の乱 資料館]Я
2009.4.21

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「大塩の乱関係論文集」目次


『江戸と大阪』
その38

幸田成友著(1873〜1954)

冨山房 1942 増補版

◇禁転載◇


 第二 市 制 (18)管理人註

国役

 江戸には公役の外に国役といふものがある。これは主として職 工に課するものであつて、古くはすべて職人を召集使役したが、 後には銀納となつた。同一業を営む商人や職人が、一地方に群集 した名残として、町名によつて国役を推察せしめ得る。例へば神 田紺屋町・南紺屋町・西紺屋町・北紺屋町・で藍染をなし、元大 工町・南大工町、神田横大工町・竪大工町から大工を出し、神田 鍛冶町・南鍛冶町・桜田鍛冶町から鍛冶屋を、神田白壁町から左 官を、大鋸町から木挽を、畳町から畳職を、神田鍋町並びに横町 から鋳物師を、桶町から桶職を、檜物町から檜物師即ち木具師を、 小網町・芝新網町並びに代地・麻布新網町から役船を、大伝馬町 並びに塩町・南伝馬町・四谷伝馬町・赤坂伝馬町から道中伝馬を、 小伝馬町から江戸伝馬を、銭砲町から鉄砲師を、小伝馬上町並び に代地・通塩町から牢屋人足を、また南鞘町で塗師職を出す類で す。この外関東筋川々普請浚の時、浅草山ノ宿六軒町・山谷町・ 新鳥越町・今戸町・橋場町・牛込弁天町から石高割国役金を出し、 梟首以上の仕置物がある時本材木町から材木、京橋炭町から竹、 元大工町外三町から大工を出した。  以上は亭保年間に一定した所ですが、この外国役の名を以て各 町に散在する職工に課するもの数種あり、髪結職が失火の際町奉 行所以下に駈付けるのもその一つです。  大阪では国役といふ文字は使つてゐない。然し多少それに類し たものはある。例へば鍛冶屋町一二丁目・関町・九之助町から仕 置物がある時鋳物類(刑具)を出し、また三郷水汲人足が失火の 時に水ノ手人足となる類です。この外江戸大阪とも冥加・運上・ 役銭の名目を以て、一部の人々が負担する金銭その他がありまし た。  天保度株仲間解放に関する触書中に無代納物無賃人足といふ言 葉が屡々出て来る。国役以下は大抵これに当るものである。上か ら命ずれば役運上となり、下から願つて納めれば冥加金冥加勤と なる。然し冥加金といつても裏面を見れば決して自発的ではない。 上から冥加金の金高の増加を促し、下からその減額を主張する所 を以て見れば、冥加金も矢張り或る意味の役運上である。いづれ にせよ国役以下は或る特定の階級又は団体から徴収せらるる金銀・ 物品・労力であるから、人足賃の様な普遍的の意味を持つてゐな い。

 


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