Я[大塩の乱 資料館]Я
2009.7.1

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「大塩の乱関係論文集」目次


『江戸と大阪』
その73

幸田成友著(1873〜1954)

冨山房 1942 増補版

◇禁転載◇


 第四 江戸大阪間の交通
  一 街 道 (11)
管理人註

内証の利潤 手代の役徳

 実際談は更に興味ある事実を語つて曰く、飛脚屋の正規の手数 料は大体右の如きものであるが、然しながら別に内証の利潤があ つた。これは別仕立の信書があつた際に生ずる。例へば甲の得意 先から六日限の書状を請負つたとする。得意に対しては直ちにそ の信書を逓送した顔をしてゐるが実は出さない。自分が呑んでゐ る。さうして乙の得意先から三日限の注文があると、それに六日 限の分を抱合せて逓送する。決して遅着しないのだから、甲乙の 得意に対して差支はない。併し六日限を二三日寝かせて置いて、 さて三日限の注文の無い時は、仕方がないから六日限の分を三日 限の割合で走らせる。前者の場合には八両だけウワに儲かるが、 後者の場合には二十二両の吐出しとなる。もし別に四日限を請取 つて六日限四日限二通を三日限に抱合はせ得たとすれば利潤は大 したものとなる。  然しそんなことは一年に数へる程しかない。書状を持つてゐる 飛脚も金飛脚と間違へられ、道中で盗難にかゝる。賊にとつては 信書は何もならぬから山間とか川中とかへ放棄してしまふ。そん な場合には何処で遭難したといふ事を書出して得意へ謝罪せねば ならぬ。三日限に抱合してやつた六日限や四日限の分は、発足し てからの日数と遭難の場所とが一致しないから、正面からは詫に 往けない。無理に辻棲を合はさうとするから、金がかゝつたり、 人手がかゝる。無傷な飛脚に傷をつけ、この通りの始末でと謝罪 にいつた話がある。  飛脚問屋の手代にも亦役徳がある。手代は蔵屋敷を廻つて江戸 下しの為替の注文を聞き、それを両替屋へ持つていつて若干の口 銭を得た。為替についてはもとより一定の打歩があつたが、両替 商が江戸で受取るべき金額がダブついてくると、逆打といつて両 替屋の方から歩合を出す。さういふ場合に蔵屋敷と両替屋との間 の為替を取持てば、手代の懐中は大いに暖まる訳です。然しそん な甘い汁を吸はうとするには、予め金銭なり酒色なりを以て蔵屋 敷の役人の御機嫌を取結んで置かねばならないから、相当に身銭 を切る必要があつたのです。

 
  


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