問学の修
養学術の
実行
嚢中の錐
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平八郎が其の幼年時代に於ける、問学修養に於いて中井氏の学風の影響を受
け、特に中江藤樹が、嘗つて奉せる余姚の学に傾くべき境遇と、気質とを有
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せることは、前述の如とし、然れども、其の如何にして問学修養をなしたる
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かは一つの疑問なり、蓋し平八郎は齢未だ二十ならずして、業已に刀筆の吏
として、簿書堆裏に其の生涯を送らざるべからざりしより、特に実用に適切
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画当なる、余姚知行合一の学説を奉ずるに至りたりしとせば、其の吏務の余
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暇を以つて、心を聖経賢伝に涵泳せしめ、一たび霊機に触着し来れれば直ち
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に之を吏務の上に活用し、応用し、一理を知らば、乃はち之を一行に活用し、
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一理一行、着々之れを実務に用来り、積むて以て帰納し、帰納して直覚し、
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直覚し、直覚して断定し、断定して演繹し、以つて其の問学の修学を大成し
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完成せむと期したるや明けし、其の問学や、実に吏務鞅掌の間に修養された
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るなり、
此の如くにして、平八郎の幼年時代は過ぎ去れり、渠れは修養時代と、吏務
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時代とに、同時に遭逢せるなり、而して渠れは早く 々たる 々たる、狷介
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なる、豪悍なる青年として、吏僚の間に嶄然として頭角を現はし、爛然とし
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て異彩を放てり、錐嚢中に在れば、必らず頴脱して出づ、異才は竟に刀筆沺
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書中の物にあらざるなり、
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応 法隆親王令 賦 龍田懐古 大塩後素
時移世換幾秋旻。紅葉青流猶自新。岸畔水車頻転展。
看疑当日御遊輪。
退食後江行書懐
厭喧聊比独醒人。曳 杖吟 詩歩 水浜 。只恨長江虚滾々。
未 曾一 洗満城塵 。
早春游 野外 。賦 所見 。
早春多雨未登山。新霽先游村野間。不 啻農人休 力作 。
耕牛亦臥柵中間。
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涵泳
ひたり味わ
うこと
触着
じかに触れ
ること
豪悍
強くて荒々
しいこと
嶄然
強くて荒々
しいこと
頴脱
(えいだつ)
才能が特に
すぐれてい
ること
大塩中斎
「詩 集」
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