両方面の
調和
析獄聴訟
の期図
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両方面の調和○析獄聴訟の期図○職権の恪守○所信の断行○孔夫子の発
強剛毅なる半面○吏務遂行の大精神○高井山城大坂町奉行となる○難を
画くに牛刀を用ふるに似たり○署中亦た滞獄なし○権勢に屈せず○清廉
自ら持す○署中風紀一変す○妖巫妖巫○妖巫を拿捕す○平八の名京畿に
震ふ○姦猾の吏を糾明す○浮屠の沙汰○高井山城守職を辞し平八亦た致
仕す○招隠を賦す○荘重静黙なる新絵巻
出でゝは、獄を析し訟を断じ、風発 属、霹靂雷霆、裁決流るゝ如く、処理
乱麻を截つが如く、入つては、学を講じ道を論じ、峭厳精励、直入直覚、英
雄を驚倒し、豪傑を下瞰し、聖賢を標幟とし、道学を門戸とし、夙に一世の
木鐸、姚学の棟梁を以つて自ら任ずる渠れ平八郎は、内、之を大虚の理に質
し、良知の体に照らし、外、之を吏務の用に稽へ、訟獄の実に鑑み、精竅淵
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玄を鉤し真に逼り、幽を聞き、霊に触れ、造謁愈深かく、省入益微なり、進
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むでは則はち、大坂府中に、勇敢果決の賢吏たり、退ては則はち、洗心洞裏
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に峭峭弱轤フ厳師たり、渠れ吏務の実際と、問学の哲理とを調和せむとする
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に於いて、大に其の意を用いたり、渠れは此の二個の方面を調和するを以つ
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て、致知格物の本旨とし、知行合一の眼目とせり、
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聴 訟吾猶 人也者、周官司寇所 云、五声、以 之聴 獄訟 、求 民情 、聖
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人与 官吏之有 才能 者 無 異矣、而無 情者、不 得 尽 其辞 、大畏 民志
者、民之不仁者飾以 仁、不敬者飾以 敬、不孝者飾以 孝、不慈者飾以 慈、
不信者飾以 信、其余不善也者、各飾以 善、而民之仁者誣以 不仁 、敬者
誣以 不敬 、孝者誣以 不孝 、慈者誣以 不慈 、信者誣以 不信 、其余善
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也者、皆誣以 不善 、此即訟端之所 由起 也、故聖君誠意、以明 仁敬孝慈
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信之徳 而臨 民焉、譬如 懸 明鏡 応 物来 、物妍 安迯 其照 、故民先咸
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其心 、不 得 訟以尽 其虚誕之辞 、令大畏 其心志 、而有 恥且格、虞
之訟 於文王 、是其証也、而至 如 此則不仁者改為 仁、不敬者改為 敬、
不孝不慈者改為 孝慈 、不信者改為 信、而仁者不 誣 之、敬者不 誣 之、
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孝慈者不 誣 之、信者不 誣 之、而仁化興 於 下 、此豈非 聖君誠意之効
乎、決非 官吏所 及也、是故雖 斉治平 、皆以 誠意 為 本、故大学結 上
文数節 、重曰此謂 知 本、其旨探矣哉、而謂 繹 本末 、昔賢既駁 之、其
言是也、
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平八郎は実に゛大学「聴 訟吾猶 人」一章の意を体認して、吟味役として之
を析獄聴訟の実務に応用したりしなり、而して截決処理の公平無私を期する
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や、自ら「有 耻且格」と言ひ、切に民の自ら知り、自ら悔ひ、自ら恥ち、自
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ら格るを望めり、
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稽(かんが)へ
精竅
(せいきょう)
逼(せま)り
『洗心洞箚記』(本文)
その46
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