Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.4.18

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その19

国府犀東(1873-1950)

(偉人史叢 8)裳華書房  1896

◇禁転載◇

吏務の治績(5)

管理人註










署中亦た
滞獄なし

















清廉自ら
持す







































署中風紀
一変す

特に其の自ら持すること清廉峭直にして其の事を処する公平無私なりしを以 つて、府署在来の旧竇たる、公事訴訟の、或は賄賂により、或は苞苴により、 礙滞久しく決せざるもの、一たび平八の公明正大なる眼前に置かるゝに至り て、長霧の太陽に逢ふが如く、簇雲の雷光に裂くるが如く、着々として裁断                                  ○ ○ し畢り処決し畢り、快刀乱麻を截ち、利鋒盤根を断つが如きものあり、署中 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ 亦た滞獄なし、民心帰し、天下風采を想望し、同列姦猾の吏輩皆な肝胆を ・・・・・・・ して寒からしむ、 平八が吟味役として勤役する暼頭に、一つの滞獄は其の面前に置かれたり、 此の滞獄や積年吏を替へ、人を更へて糺問し、審察するも、未だ其の裁決の 効を奏すること得ざりしころたり、其の事件たるや、領分争の問題に在り、 一方は紀州家の領分、一方は岸和田の領分なり、紀州家は権家なり、而して 岸和田は正なり、曲権家に在り、是れ凡庸吏輩の速かに決すること得ざりし      ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・ 所以なり、而かも平八は克剛克柔威武も屈せず、権勢も抂げず、公平無私、 ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・ 直ちに裁断して、亦た秋毫も仮借するところなし、又た一滞獄は其の前に案 せられたり、是れ亦た積年決するを得ざりしところ、而して今や平八之を裁 断するの地位に在り、是に於て一方の主者、窃かに平八の宅に抵りて其の情 を陳し、且つ賂ふに菓子一凾を以てせり、平八は異りたる色もなく、仮りに 納受して之を机上に置き、其のまゝ手をも触れず、明朝詰旦奉行所に上り、 先づ此の両造のものを召喚して尋問し、諭すに正邪曲直の分明なる道理を以                       ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ てす、彼の主者直ちに叩頭平身して罪に伏す、是に於いて積年の滞獄一瞬に ○ ○ ○ ○ して決す、平八はかねて府中の悪風竇を一掃せむと期したるが故に、預じ め僕に持せしむるに、、彼の菓子凾を以てしたりしかば、直ちに僕を喚び寄               ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・  せて、彼の菓子凾を齎らしめ、満庭有司の面前に之を出し、さて云ふ様、 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ・・・ 皆様御菓子を好まるゝが故に、公事も裁判も容易には決し候はずと、竦然一 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・ 座を睥睨しながら、菓子凾の盖把り見れば、凾中に充塞するもの是れ菓子に ・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ ・・・ はあらで、大判小判の黄金なりけり、之を見て取る満堂の俗吏徒輩、相ひ見 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・  ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 合せて手に汗を握り、挙座黙として亦た仰き見るものなし、是れより署中の ○ ○ ○ ○ ○ ○ 風紀一変せり、



苞苴
(ほうしょ)
賄賂


























抂(ま)げず



幸田成友
『大塩平八郎』 
その15


抵(いた)りて

賂(まいな)ふ

詰旦
(きったん)
早朝






齎(もた)らし


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